【2021 J1 第14節】鹿島アントラーズ vs 横浜F・マリノス
スタメン
鹿島アントラーズ
- 前節から6人を先発変更
- 注目の上田はベンチスタート
横浜F・マリノス
- 前節と同じ先発メンバー
- ベンチメンバーも同じ
今季マリノスの守備原則
今季のマリノスは、守備で出ていくときとブロックを作る使い分けをしている。こういったことは選手コメントでよく見ますよね。では具体的にどうやっているか、それぞれ見ていきましょう。
ハイプレスの原則
- ブロックが形成されてからプレスを開始
- 前の選手が出ていった場合、縦にスライドしてプレスをかける
マリノスがプレスを開始するのは、ブロックを形成してからが基本原則です。バランスを崩して取りに行く場合もありますが、今季その数は減っているでしょう。
プレスをかける方法は主に縦ズレ。大然が相手センターバックへ寄せたとき、空いたサイドバックにティーラトンが出ていく。こういった光景はよく見られますよね。サイドバックが躊躇なく出ていけるのは、3バックでの特訓があったからでしょう。(詳しくは昨季アウェイ名古屋戦の記事にて)
この縦ズレは最終ラインまで波及します。ボランチの選手が前に。そこに連動してセンターバックも出ていきます。一番後ろが同数ってこと、結構ありますよね。これが今季マリノスのプレスのかけ方になります。
ブロック守備の原則
- ポジションバランスが整っていない状態でボールを失った場合
- まずは最終ラインとボランチの選手が元の立ち位置に戻る
- 後方のブロックが形成されてから前に出てプレス開始
- 前線の選手はボールホルダー目がけてプレスバックを敢行
今季のマリノスはブロックを作る意識が高いです。陣形が崩れている状態でボールを失った場合なんか顕著ですよね。ブロックを作るまでの間、守備ラインは下げ続けます。
このとき戻る位置はオリジナルポジションがベース。ただし、そこに縛られるのはディフェンス陣とボランチの選手のみ。前線の4人はボールホルダー目がけて猛スピードでプレスバックします。大然やオナイウのボール奪取が目立つのは、これが理由の1つでしょう。
ブロックが整ったら前に出てボールホルダーに圧力をかけ始めます。これが前線のプレスバックと重なったとき、挟み込んでボールを奪う形に。前線の戻り人数が多いと、まるでゲーゲンプレスをしているように見えます。
守備ラインを下げながらブロック形成してるので、相手を自陣深くまで入れてしまうデメリットがあります。しかし、不用意に背後を抜かれる可能性は下がるので、安定した守備を行えることがメリットに。スコーンと裏を抜かれる頻度は今季激減してますよね。
鹿島戦での守備はどうだったか
さて、前述した守備原則を頭におき、鹿島戦ではどうだったか振り返ってみましょう。
捕まらない荒木
- 縦ズレの原則により三竿へ出ていく扇原
- これに連動するのは畠中なので、荒木へ意識が傾く
- 背後にスペースができるので、2列目の選手が斜めに走って狙う
この試合、ライン間にいる荒木が厄介でした。縦ズレの法則があるので、相手ボランチに出ていくことが多い喜田と扇原。そうなるとセンターバックの前にスペースができあがりますよね。そこにスルスルっと侵入したのが荒木。フォワードの選手なのでセンターバックが前に出れば対応可能です。しかし、鹿島は荒木の動きに連動して前へ出る選手が…
それが両翼の松村&白崎です。センターバックが出ていった、または留まった背後を狙ってランニング。これが嫌で下がると荒木がフリーに。しかし上がると裏を取られる。マリノスにとってトップ下の選手って捕まえにくいんですよね。実際、セレッソ戦の清武、仙台戦の赤崎には手を焼きました。これは事前のスカウティングが奏功した形だったでしょう。
2失点目と3失点目について
CBが前に出た(留まった)ため、背後のスペースを相手に与えてしまった
2失点目と3失点目は、同じ形で相手に背後を抜かれてしまいました。前者は松原が白崎との競り合いに負けて、後者は土居に喜田の背後を取られたことでピンチに。それぞれセンターバックが前向きな対応を決断しました。
今季の原則に沿うと、このときセンターバックには2つの選択肢があります。前に出るか、後ろに下がるか。では、後者にしたらどうだったでしょう。
前に出ていかず、下がってスぺースを消すことができる
後ろへ下がった場合、相手の飛び出しを抑制することができたでしょう。その代わり相手には自陣深くへ侵入されますが、一発でピンチになる可能性は下がります。引いた上で味方の帰陣を待つやり方ならば、失点しなかったかもしれません。
ちなみにこの場面は、高丘が前に出て処理していませんでした。それは、崩れた陣形なら一旦引いて整える原則があったことも絡んでいるでしょう。本来なら引くはずなので自分が高い位置を取る必要はない。そういった判断から、この場面では前に出なかったのでしょう。もちろん、相手のパスが極上だったこともありますけどね。
なぜミスが出てしまったのか
では、なぜ失点の場面でチアゴや畠中が前に出たかを考えてみましょう。
- ハイテンポの中、前に出るか後ろに下がるかの選択を強いられた
- 前半荒木が中々捕まらず、比較的自由にプレーさせてしまった
時間がない中での選択って焦りますよね。そういった状況だと判断の精度が下がります。慣れ親しんだものなら、時間がなくても的確な行動がとれたでしょう。しかし、この守備方法は今季から取り組み始めたもの。まだ体に染みついていないものは、行うまでそれなりな時間を要するものです。
今まではマリノスがテンポを握っており、自分たちのやりやすいペースに持ち込むことができました。そのため、各種判断も正確に実行できる状態。しかし、この試合は鹿島の望むハイテンポな展開。ここまでの速度は未経験だったため、判断が難しいものになりました。
また、前半荒木が中々捕まらなかったことも要因の1つかもしれません。彼の自由を奪うため、前向きの意識が強まる。そういった精神状態でこの場面を迎えたら、前に出るという選択を取りやすいのも頷けます。
以上より、これら2つのことがミスを起こしやすい状況を作り出していたのだと思います。平たく言うと、ものすごいスピード感の中、狡猾な相手と対峙したから、ということになるでしょうか。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
高丘のミスについて
まずは1失点目について。こちらはマリノスが抱えるコーナーキックの弱点を突かれた形です。ファーポスト目がけたボールは3:07と11:04にも蹴られています。失点シーンも、高丘が松原とぶつかってもつれていますが、これが鹿島の狙いの1つ。
仮に高丘でなくても、松原のクリアミス、または多くの選手に飛び込まれて失点、ということも十分あり得たでしょう。弱点を突かれて高丘が対応し、結果として彼がキャッチングミスをした。ということで、たまたま失敗した人間が高丘だっただけだと思っています。
次に5失点目について。前述した通り、崩れた状態だとキーパーは高い位置を取る必要が薄れます。しかし、そのため2,3失点目が発生してしまった。この日の守備陣は前向き意識が高かったため、自分が前に出た方がいいだろう。そういった判断のもと飛び出した、アドリブ的なものだったのかもしれません。チアゴと重なるような形でしたしね。
飛び出した結果、トラップミスで相手に掻っ攫われてしまいましたが、こういった背景があったことは覚えておきたいところです。普段と違うことをしたので、ミスが出やすい状況だったとも言えるでしょう。
双方ともミスをしたのは高丘です。しかし単なるミスではなく、そうなりそうな背景や理由があったので、一概に彼だけとは言いづらいものがあります。これらに関しては高丘のみを攻めるのは酷なのではないでしょうか。
押し込むべきかどうか
「相手を押し込んだ場合どうだったのだろう?」自分の中でちょっと気になった部分です。
- 押し込むことで相手2列目が飛び出すまでの時間を稼ぐことができる
- しかし攻守が変わればトランジションは発生するので、相手の速攻はどのみち受ける
- 敵陣にスペースがないと大然やエウベルの良さをフルに活かしきれない
- かといって水沼や天野を入れると鹿島のスピードに対応しづらくなる
上記のことを踏まえると、必ずしも相手を押し込んだ方がいいとは言えないなと思います。失点するリスクは少し減りますが、得点する術がかなり少なくなるはず。これだと収支が割に合いません。それなら鹿島が望む形だとしても、オープン気味に試合を進める方が勝利に近付ける。なので、このやり方と先発メンバーは現在のベストだったでしょう。
なので悔やむべきは、このスピード感で正確な判断ができなかったことになるのかなと。これほどの速度は初体験だったので、いい勉強になったのではないでしょうか。次回以降こういったペースで試合を行ったとき、チームとしての真価が問われるでしょう。