【19-20 セリエA 第27節】アタランタ vs ラツィオ
スタメンと攻守の狙い
アタランタ
- 3-4-2-1の布陣
- 敵陣守備はマンツーマン。自陣守備はリトリート
- アレハンドロ・ゴメスを中心としてボールを保持しながら前進を図る
ラツィオ
- 3-5-2の布陣
- 5-3-2のブロックを形成して人を捕まえる守備
- 強力2トップを活かした快足カウンターが主な攻撃
アタランタの守備とラツィオの攻撃
アタランタの守り方


- 敵陣守備はマーク相手を決めてどこまでも追いかける地獄のマンツーマン
- 自陣守備は5バック+両ボランチがエリア前にリトリートする
敵陣にボールがあるとき、アタランタはマーク相手を定めてマンツーマンで対応します。決めた相手がどこに動いても絶対についていくスタイル。自分の知る限り一番しつこいチームです。
最初は図の通りの対応でした。しかしフレウラーは、攻撃時にボランチの位置へ戻るので移動が多発。スペースは空くし、攻撃もスムーズにいかない…前半10分ごろからゴメスとマークを入れ替えることで改善を図っていました。
後方は数的優位を確保したいため、逆サイドのウイングバックを捨てます。ラツィオの強力2トップ相手に同数は怖いですからね…
マンツーマンをかわされ、自陣に運ばれるとリトリートに移行します。5バックと両ボランチは我先にと自陣エリア前に撤退。ブロックを作るというより、ゴール前を固めるという意識が高いです。
また、ラツィオは攻撃時に3バックとアンカーは前に出ず、相手のカウンターに備える。分業制なイメージを持ちます。
アタランタも攻守分業気味で、前線3トップは精力的に戻ることは稀。こちらもカウンターの機会を伺います。
マンツーマンに対抗するラツィオ
素早い動き出しで瞬間的に自由を得る
素早く動くことでマンツーマン相手が後手を踏み、瞬間的にフリーになる
マンツーマンの大変なところは、相手の動きに合わせることでしょう。相手が動く、自分がついていく。必ずこの順番で選手が動きます。そのため、ラツィオの選手が素早く動くと、後手を踏んだアタランタの選手は一瞬マークを外してしまうことに。
それを利用して前進したのがこの場面。特に前半早めの時間帯に多く見られました。主に下りるのはインモービレ。彼が下りるタイミングと、周りの選手が上がるタイミングはバッチリでした。連携度の高さが伺えます。
ただ、時間が経つにつれてこの動きが減少。中断明けのため、スタミナが切れる時間も早かったようです。これを継続できず、徐々にアタランタがボールを持てるようになりました。
相手を動かして意図的にスペースを作り出す
マンツーマンを利用して相手を外側へ動かし、中央にスペースを作り出す
決まった相手にどこまでもついてくるマンツーマン。ということは、自分が動けば相手もそこに動かせることになります。それを利用し、意図的にスペースを作ったのがこの場面。
リベロのアチェルビが外側へ動くことにより、中央にいたサパタを引っ張ります。空いた中央にアンカーであるカタルディが下りてボールを受ける。
センターバックとアンカーがポジチョンチェンジ。常識で考えるなら非常にリスキーで大胆な行動でしたが、マンツーマン相手には効果覿面。このように相手を動かしてボールをうまく進めることが何度か見られました。
守備切り替えによる穴の発生
マンツーマンをかわされると急いで戻るため、エリア前に固まりラインが平たくなる
マンツーマンをかわされたアタランタは急いで自陣に帰還。リトリートしてゴール前を固めます。『戻る』ということに意識が傾く選手たちは、前後のバランスを考える余裕があまりない様子。そうすると、ディフェンスラインは横並びになってぺったんこに。エリア前がポッカリと空いてしまうことも。
そこでボールを受け、強烈なミドルシュートを突き刺したミリンコビッチ=サビッチ。彼のシュートは非常に素晴らしいものでした。スーパープレーの背景に論理的なカラクリがある。こういうところもサッカーの面白いところですよね。
アタランタの攻撃
ビルドアップ時の基本配置
アタランタはビルドアップ時、左センターバックを外側に上げ、ウイングバックを前に押し上げる。それによってシャドーの位置にいたアレハンドロ・ゴメスが自由に動くことができます。右サイドは、ボランチが外に開き、ウイングバックとの中継点に。これによって外側に弧を描くような配置になります。
外からボールを回すことにより、ラツィオ中盤の脇を入口にしたいアタランタ。しかし、外一辺倒というわけではありません。左ハーフスペースはフレウラー。右ハーフスペースはマリノフスキー。さらにフリーロールのアレハンドロ・ゴメス。この3人でブロックに空く中央の隙間を伺います。
ボランチを外側に追い出して中央が手薄になる。センターバックをスライドさせることでアレハンドロ・ゴメスに自由を与える。守備時に相手フォワードと同数になることもいとわない超攻撃的なスタイルになります。
相手を留めるセンターバック
ジムシティが上がり、ラツァーリの注意を引く。高い位置に出たゴセンスに対応するのはパトリック。相手の最終ラインから2人を引っ張り上げることに成功したアタランタ。ゴセンスはフレウラーとのワンツーでスペースに抜け出してクロスを上げます。
センターバックが空いてのディフェンスラインを引っ張るという珍しい光景。超攻撃的な配置をしているアタランタならではでしょう。カウンターを恐れて上がらなくなることはなく、試合の最後までこの動きを見ることができました。彼らのスタイルが一貫している証でしょう。
パスマップから見るビルドアップルート
- 外回しでのボール回しが基本
- パス出しの中心はアレハンドロ・ゴメス
- 左サイドでのパス交換が活発に行われている
外回しでボールを回していることがわかります。特にウイングバックからシャドーにボールが入る頻度が高かったようですね。
パスを受けるのも、出すのも多かったアレハンドロ・ゴメス。彼がビルドアップにおけるキーマンだったようです。フレウラーと共に左ハーフスペースを蹂躙していたことが伺えます。彼らがいたからこそ、左サイドでのパス交換も頻繁にあったようですね。
ウイングバックの役割の差


- ゴセンスはシュート数が多く、ゴール前にも顔を出している
- ハテボアーはパス数が多く、サイド深くまで侵入している
前述した通り、ゴセンスは高い位置に押し上げられます。そのため、彼はクロスを上げるというよりは、ゴール前に入る頻度が高かったようです。シュート数も多かったことがわかります。
反対に、ハテボアーはサイドを上下動することが主な仕事。ゴセンスに比べ、深くまで侵入しています。またパス数も多く、ビルドアップにも顔を出していたことがわかります。
フィニッシャーとして崩しの役割が期待されるゴセンス。チャンスメーカーとしてサイドからのクロスが多くなるハテボアー。同じウイングバックなのに、こうも役割が違うことが面白いですね。
スタッツ
whoscored
https://www.whoscored.com/Matches/1415953/Live/Italy-Serie-A-2019-2020-Atalanta-Lazio
sofascore
understats
所感
最っ高に楽しい試合でした。相手の出方に対応して策を練るラツィオ。尽きないスタミナで相手を追い詰めたアタランタ。攻撃的な両チームが論理的に相手を攻略する様は非常に見ごたえがありました。しかし、それらをぶち壊すスーパープレー。理詰めで合理的に進めていたものが、得点に結びついたのはただの理不尽という。もう笑うしかないですよね(笑)個人的にこういうの大好きです!どうも自分は合理的な詰将棋だけだと物足りないみたいですね。稀に歩が飛車のように動くことがあると、爆笑しながら見てしまいます。
アタランタが逆転できたのはスタミナの差もあるのではないでしょうか。マンツーマンは自分本位でない動きでないため、同じ距離を動いてもスタミナ消耗は激しいものになります。それでも最後までやり切ったアタランタは驚愕に値するでしょう。素晴らしかったです。
また、アタランタ1点目がそうなんですが、ラツィオはファーへクロスを上げるとボールウォッチャーになる傾向がありました。それをわかってかどうかわかりませんが、アタランタは何度か狙っていたように感じます。自然とそういうことができるのは純粋に強さですよね。
あくまで個人的な感想ですが、中断明けに見た試合の中で群を抜いて面白い試合でした。自分の思うサッカーの魅力が全て詰まった試合だったでしょう。またこんな楽しい試合が見れることを期待し、残りの試合も楽しみたいと思います。
【19-20 プレミアリーグ 第28節】マンチェスター シティ vs アーセナル
スタメンと攻守の狙い
マンチェスター シティ
- 4-1-2-3の布陣
- ボールを保持して立ち位置で優位に立つ攻撃
- 中盤は人を捕まえ、前線は相手センターバックを警戒する守備
アーセナル
- 4-2-3-1の布陣
- ボールを保持して立ち位置で優位に立つ攻撃
- ハイプレスとブロック守備を陣地によって使い分ける
アーセナルのボール保持
アーセナルの攻撃とシティの守備


アーセナルの攻撃
- 4-3-3のような布陣で後方からビルドアップ
- ベジェリンは大外高めの位置を取る
- 前線の3人はそれぞれ相手ディフェンスラインの背後を狙う
後方から丁寧に繋ぐ意識が見られるアーセナル。ゲンドゥージが少し下がり、全体として4-3-3のような形でボールを回します。
前線の3人はそれぞれ相手ディフェンスラインの背後を狙っており、ビルドアップにはほとんど参加しません。また、パス精度の高い選手が左サイドに多いことから、そちらのサイドに偏る。ボールの動く範囲はかなり狭い印象でした。
シティの守備
- マフレズはマリを強く意識する
- その結果ティアニーは空くことが多い
- ギュンドアンがゲンドゥージに出ていくことが多い
- 背後にスペースがポッカリと空いてしまうことがリスクになる
これに対するシティの守備はアーセナル左サイドの封鎖でした。
マフレズがマリを強く意識することで圧力を強めます。また、中央からの進路を塞ぐため、ゲンドゥージにはギュンドアンが出て対応。
しかし、この対応により空く箇所ができることに。マフレズの前進はティアニーをフリーに。ギュンドアンの飛び出しは中央にスペースを生み出します。このリスクを負うかわりに前で奪う。これがシティの採った選択でした。
ギュンドアンの背後を使うアーセナル
- マフレズがマリに出ていく
- ティアニーが空くので、そこへパス
- デ・ブライネとウォーカーがカバーで飛び出す
- ギュンドアンが出ているので中央が空く
- 下りたエンケティアへパス
- オーバメヤンが背後を取るもボールは出ず
浮くティアニーとギュンドアンの背後
マフレズがマリを見ることでティアニーが浮く。そこへパスを通されたとき、カバーのためにデ・ブライネとウォーカーが出てきました。
このときギュンドアンも前に出ていたため、中央にポッカリとスペースが空きました。ゲンドゥージを捕まえず、中央を守っていればここは空かなかったでしょう。
空いたスペースに下りたのはエンケティア。ティアニーは彼へパスを出します。
前線3人の裏抜け
エンケティアにパスが出たとき、オーバメヤンはガルシアの背後を取って抜け出します。しかし、そこへパスが出ることはありませんでした。
この他にも、前半35分ごろにもオーバメヤンが抜け出すもパスが出ない…オフサイドもサカが3回、エンケティアが2回ありました。抜け出す選手と、ボールの出し手で意識が揃っていなかったことが伺えます。タイミングと場所を整理していればもう少し効果的な攻撃を仕掛けられたかもしれません。
パスマップとパス位置
- 左サイドに偏ったパス回し
- 後方でのパス回しがほとんど
- 外回しでのパスが多い
パスマップとパス位置を見ると、左サイド後方に偏っていることがわかります。
マリとレノ間でのパス交換が多い。ティアニーやセバージョスでパスが止まっていることが見受けられるなど、外回しを強いられて前進に苦戦していた様子が伺えます。
右サイドへの展開はゲンドゥージを経由し、ベジェリン、サカ、ウィロック、エンケティアのルートだということも表れています。左で作って右へ展開。ここまではいったようですが、フィニッシュまで中々持ち込めなかったようですね。
シティのボール保持
アーセナルのハイプレス
シティ陣内にボールがあるとき、アーセナルはハイプレスを敢行。
中盤は相手を決めてマンツーマンで対応。特にギュンドアンに対するマークは厳しく、ゲンドゥージが常に監視している状態でした。
また、サイドの選手は相手サイドバックとセンターバックの中間を取ります。ただ、サイドバックへのコースを消す意識が薄く、脇を抜かれることが何度も見られました。恐らく、外切りを意識させながらセンターバックへ寄せたいのでしょうが、まだ馴染んでいないようですね。
ディフェンスラインはあまり前に出ることはありませんでした。抜かれるリスクを嫌った形になるでしょう。相手フォワードが下がっても深くは追いかけていませんでした。
ゲンドゥージに迫る2つの選択肢
ゲンドゥージの近くに下りることで、ギュンドアンへのマンツーマンをぼかす
最初はマンツーマンに苦戦していましたが、いつまでもそのままじゃないのがシティ。前にいるシルバ、デ・ブライネ、ジェズスがゲンドゥージの近くに下がってくることで二択を迫ります。
こうすることでギュンドアンが徐々にボールを持てるように。敵陣侵入がスムーズになったことで、シティの押し込む場面が増えていきました。
抜かれるウイングの背後
中間を取るウイングの背後をサイドバックが突く
前述した通り、ウイングの立ち位置もうまく利用されていました。
サイドバックが死角を取ってフリーに。前線からの落としを受けることでサイドを突破する場面が何度か見られました。
この他にもサイドに開くだけでセンターバックからパスを受け取れていました。前線からパス方向をうまく制限できていないことが気になりました。
アーセナルの自陣守備
- 4-4-2のブロック守備
- ゾーンで構え、前にきた相手を捕まえる
- ギュンドアンに明確なマークがいなくなる
相手が自陣まで迫ったとき、アーセナルは4-4-2のブロックを形成。撤退守備に切り替えます。
ゾーンで構え、自分の前にきた選手を捕まえる守備。ガンガン前に出ていくので、シティの選手が動くと、アーセナルの選手を動かすことができます。
また、ハイプレス時はギュンドアンを塞いでいましたが、撤退時は明確なマークが不在に。2トップの守備が甘いこともあり、比較的自由にボールをさばくことができるようになります。
この守り方、特にゲンドゥージの負担が大きく、ハイプレスから撤退守備への切り替え時に長い距離を走ります。また、ハーフェーライン付近でボールを回されると、守備方法の切り替え判断が難しいです。自分が出ていくか、それとも待っているか。ゲンドゥージが悩んでいる姿が印象的でした。
自由を謳歌するギュンドアン


ギュンドアンに明確なマークがいないので、ボールを自由にさばける
敵陣に押し込むと自由になるギュンドアン。この場面ではラポルテが持ち上がることでエンケティアを引っ張る。これだけでもうフリーです。シルバやマフレズとパス交換。抜け出したスターリングに長いパスを送るなど、長短のパスを自由自在に繰り出します。
パスマップとパス位置


- 最初は後方でのパス回しが多いが、22分からは前でのものが多くなっている
- ジェズスやギュンドアンのパス数が22分になってからは増加
シティのビルドアップに変化が見られたきっかけは、マリが負傷して試合が止まったときでした。
最初は後方でのパス回しが多く、前進に苦しんでいました。ラポルテとエデルソンでのパス交換の多さ。ギュンドアンのパス数の少なさがそれを物語っています。
しかし、試合再開後は前でのパスが増えたことがわかります。これは前述したゲンドゥージのマンツーマンをぼかし、ギュンドアンがボールに触れる回数が増えたことが影響しているでしょう。ジェズスのパス数が増えていることから、彼が下がってヘルプにきたことが伺えます。
ギュンドアンがボールを回せると敵陣に侵入する回数も増加。その成果は数値にも表れていました。前半32分から前半終了までで7本ものシュートを記録。それまでのシュート数が2本だったことを考えると、劇的に変わったことがわかります。
スタッツ
whoscored
sofascore
understats
所感
開始当初はアーセナルのプランがハマっていたように思います。うまくシティのビルドアップを妨害していましたよね。しかし、自分たちの攻撃はいまいちでした。ビルドアップ参加人数の少なさと、左サイドに偏ることでボールを回せるエリアが限定的になっている。これが主な原因ではないでしょうか。
解決策としては右サイドにもパスを出せる選手を入れることでしょうが、選手獲得ができないので非現実的。今できることは、後ろに長いボールを蹴れる選手を配置。後方に時間とスペースを作り出し、相手ディフェンスラインの背後にロングボールを蹴って抜け出すことだと思います。前線にスピード豊富な選手がいるので狙いやすいのではないでしょうか。
相手の出方を理解し、時間経過と共に対応策を打ち出したシティはさすがでした。互いに配置を重んじたサッカーをするので、退場者が出てからは一方的な展開になりましたね。そこできっちり試合を決められるのも力があるチームだという証でしょう。
また、ギュンドアンがゲンドゥージに対して出ていく守備について。自身がマンツーマンで対応されるので、ゲンドゥージがトップ下だと思ったからではないでしょうか。それなのに相手はやたら下がってボールを受ける。彼自身、頭に?を浮かべて対応していたかもしれません。その後、出すぎずにスペース管理を優先した切り替えはさすがだと感じました。
負傷者や退場者が出たアーセナル。ここが万全だったときを見たかったという思いが少なからずあります。その対戦はまた来季。次の試合も今から楽しみです。
【19-20 ラリーガ 第28節】マジョルカ vs バルセロナ
- スタメンと攻守の狙い
- 中央を封鎖するマジョルカ
- サイドへの圧力を強めるバルセロナ
- 多彩なバルセロナのビルドアップ
- パスマップから見るバルセロナのビルドアップ
- 両チームのシュートについて
- スタッツ
- 所感
スタメンと攻守の狙い
マジョルカ
バルセロナ
- 4-3-3の布陣
- ボールを保持して相手を動かしながらパスコースを探る
- 守備時は即時奪回を目指しつつ、取れなければ4-4-2のブロックを形成
中央を封鎖するマジョルカ
- 2トップの片方は必ずブスケツをマークする
- もう片方のフォワードはボールを保持しているセンターバックへ寄せる
- ボランチは相手インサイドハーフを捕まえる
- 全体的にボール方向へスライド。縦横にコンパクトな布陣を維持する
最大の特徴は2トップの片方が必ずブスケツをマークすることでしょう。センターバックがボールを持ったら片方が寄せ、相方はブスケツをマーク。逆のセンターバックが持つようになったら、ブスケツのマークを入れ替え、役割が反転する。
2トップのスライドが間に合わない場合はボランチが前に出てブスケツをマークする。後方に構える選手たちもボールサイドにスライド。これらのことより、中央を使われたくない意思が強く伝わってきました。
ボランチは別の役割も担っています。それは相手インサイドハーフ封じ。フレンキーとビダルをマークし、なるべく外側でボールを回させようとします。
アンカーを消し、逆サイドを捨てるほど横圧縮することで中央を封鎖する
うまく狙いがはまるとこんな具合にバックパスを強いることができていました。
逆サイドを捨てるほど空けていますが、そこは相手が後ろに戻す時間でスライドします。開始早々に失点してしまいましたが、前半14~36分まではバルセロナのシュートを0に抑えるなど、一定の効果がありました。
サイドへの圧力を強めるバルセロナ
この中央封鎖に対して、サイドで優位性を確保しようとするバルセロナ。様々な工夫が見られました。いくつか見ていきましょう。
センターバックの持ち上がり
センターバックの持ち上がりにより中央封鎖を意識させてサイドを空ける
センターバックが持ち上がることにより、相手に中央を意識させます。このときフレンキーがハーフレーンにいることがポイントです。ここを経由されるのはマジョルカからしたらご法度。中央への意識がより強まります。これで大外にいるアルバへのパスコースが空くことに。サイドに起点を作ります。
相手サイドハーフを留めるインサイドハーフ
- フレンキーがロドリゲスを留める
- メッシがフリーで下りてくる
- メッシにボールが入ったとき、相手の注意がそこへ向く
- 視線が外れたフレンキーが背後を取る
- サイドバックがカバーに入る
- 外にいるセルジ・ロベルトがフリーになるのでそこへパス
インサイドハーフが相手サイドハーフの近くに立ち、相手を留めるシーンもいくつか見れました。こうなると外にいるサイドバックより、内側にいるインサイドハーフの方がマーク優先度が高くなります。泣く泣く外側を空けるも、そこへパスを出されると後手に回ることに。セルジ・ロベルトやアルバからのクロスは多く見られましたよね。
多彩なバルセロナのビルドアップ
相手の対応を把握した前半14分ごろから、バルセロナの中盤が動きます。
インサイドハーフのレイオフ


2トップ脇にインサイドハーフが下りて縦パスを引き出す
この動きは前半14分ごろから見られるようになりました。
自分にマークがつくことがわかったブスケツは安易に下がることしません。あえて中央付近にいることで後方にスペースを作っていました。主に空くのは2トップの脇。そこにインサイドハーフが瞬間的に下りることで、縦パスの受け口になります。余裕があればターン。難しいならバックパスすることにより角度をずらします。
この動きをフレンキー、ビダルの両選手が行っていたことから、インテリジェンスの高さが伺えました。
アンカーが下りて3バック化


前半24分ごろになると、今度はブスケツが下りてくるようになりました。センターバックを開かせて間に落ちる。いわゆるサリーダ・ラボルピアーナというやつです。こうすると何が嬉しいか。それはサイドバックを高い位置に押し上げられることです。
例えば、前半35分ごろは、セルジ・ロベルトが高い位置を取っています。そのため、ウイングは中央に絞れることに。メッシを中央に移すことで、司令塔としての役割を期待できます。これが布石となり、メッシがアルバにパスを出せたからこそ、追加点が生まれたのだと感じました。
パスマップから見るバルセロナのビルドアップ


キーパーを含めたディフェンスラインでのパス回しが多く、U字型になっていることがわかります。このことから、マジョルカの中央封鎖守備はある程度成功したと言えるでしょう。
では、U字の出口はどこになっていたのか。それはセルジ・ロベルトだったようです。彼からメッシやビダルに多くのパスが出ていることがわかります。ここをきっかけに攻撃をしていたみたいですね。
なぜ前半14分で区切ったかというと、ちょうどこの時間からクチョ・エルナンデスとダニ・ロドリゲスがポジションを入れ替えたから。
入れ替え後、セルジ・ロベルトへのパスは減っていますが、代わりにフレンキーやブスケツへのパスが増えています。このことから、メッシのいるサイドを封じたい意図があったように思います。代わりに中央を使われるようになったので、これをどう評するかは意見が分かれそうですね…
また、ブライスワイトとグリーズマンのパス本数を見ても面白いです。前者は数が少なく、主にフィニッシャーとしての役割に傾倒していたことがわかります。後者は数が多く、繋ぎ役になっていたことが伺えます。それぞれキャラクターが違うようですね。
両チームのシュートについて
この試合、両チームのシュート数のみを見るとほぼ互角の本数でした。しかし結果は0-4。xGも大差がつきました。そこで、両チームのシュートについて少し掘り下げたいと思います。
シュートを撃った位置について


マジョルカ
- 約半数がエリア外のシュート
- 枠内シュートはエリア外からの3本のみ
マジョルカのシュートは約半数がエリア外。枠内シュートもそこから3本を記録。敵陣深くまで侵入することができなかったようです。
サイドから突破してもクロスを相手に跳ね返される。カットインしてもシュートをブロックされる。バルセロナの中央を意識した守りに苦戦していましたね。
バルセロナ
- 全てのシュートがエリア内から
- 撃った位置もほぼゴールエリア幅内になっている
何と全てのシュートがエリア内からでした。横もほぼゴールエリア幅。ゴール正面から多くのシュートを浴びせていたことがわかります。
こちらは敵陣深くへ侵入でき、決定的な位置でシュートを撃てていたようです。それが得点やxGに表れたのでしょう。
シュートを撃った選手について


マジョルカ
- 最多は久保の4本
- ブディミルが2本と、フォワードが放ったシュートが少ない
最多本数は久保が記録。彼はチャンスメイクだけでなく、フィニッシュにも多く関わっていたことが伺えますね。
ブディミルとポゾがこれに続きます。シュートを2本以上撃ったフォワードはブディミルのみでした。フォワードが放ったシュートが少なく、フィニッシュに絡めていないことがわかります。彼らへどうボールを渡すか。そのデザインがあまり見れませんでした。
バルセロナ
対するバルセロナはメッシ、ブライスワイト、スアレスと、多くのフォワード陣が上位に顔を出していました。こちらはフィニッシャーが役割を果たせていたと言えるでしょう。ゴールまできちんとデザインされていたことが伺えます。
スタッツ
whoscored
https://www.whoscored.com/Matches/1394359/Live/Spain-LaLiga-2019-2020-Mallorca-Barcelona
sofascore
understats
所感
バルセロナの多彩な攻め方に圧倒される試合でした。あの手この手を使い、相手に慣れを与えさせない。ここにえげつなさを感じました。特に相手のプランを読み取ってからの動きは秀逸。強制的に次のプランへ移させるほどの頭の良さが、チーム全体に浸透しているようですね。
1つ気になるのは、グリーズマンとブライスワイトの役割。前述した通り、グリーズマンはチャンスメイカーになっています。これは監督として想定内なのか、それとも違うのか。選手起用法などをこれから数試合見ていきたいなと思いました。
マジョルカはサイドハーフに大きな負荷がかかるサッカーをしているなという印象でした。攻撃においてはドリブルやパスなどでチャンスを創出。守備では2トップがカバーしきれないエリアを見るなど、役割が多いように思います。中央から崩すプランが見られなかったことから、攻撃の成否は彼らの出来に左右されるでしょう。
チャンスメイクということに久保は応えていましたが、守備でやられてる姿が目立ちました。あれだけ攻撃を任せるのなら、もう少し守備負担を軽減できる仕組みを作ってあげたいものです。が、この過密日程でそんなことできないので、どう付き合っていくかでしょうね。
さて、リーガも戻ってきました。次の週末にはプレミアも再開される予定です。徐々に欧州サッカーが戻ってきている喜びを噛みしめつつ、今後も多くの試合を楽しみにしたいと思います。