【2022 J1 第9節】横浜F・マリノス vs 川崎フロンターレ
スタメン
横浜F・マリノス
- 前節から2人の先発メンバーが変更
- 樺山が今季初のベンチ入り
川崎フロンターレ
- 前節から3人の先発メンバーが変更
- 車屋が負傷で離脱中
中央を封鎖するフロンターレ
徐々に適応した守備方法
川崎は、マリノスのサイドバックが中に絞ることを想定していたのでしょう。試合開始当初は、サイドバックへの寄せが甘かったです。なので上図のように、一気に背後を取れることもありました。
今季初先発の宮城と、新加入のチャナティップがコンビを組むサイドが特に目立ちました。精度の高い長距離パスを出せる松原がいたことも影響しているでしょう。
しかし徐々にチームとしてやり方をまとめてきました。川崎のインサイドハーフが、躊躇なく松原や龍太へ寄せるようになったことがその証左でしょう。
── 立ち上がり20分ぐらいは、難しい入りだったが、どう立て直したのか
多少、守備のところでうまくはまらない。そういう時間がありました。時間とともにかなり修正できました。ゲームの中で修正したいというところでは、前半で良い形に持って行けたことも多くありました。そこは選手の理解、行動は良かったと思っています。得点までいきました。ただ後半も含めて、もっとやらないといけなかったと思います。
鬼木監督もこのようにコメントしていました。飲水タイムが全試合にない今季は、ピッチにいる選手たちのみでの解決が求められます。トライ&エラーを繰り返し、徐々にブロックを完成させたのは素晴らしいことだったでしょう。
- 自ゴールから遠い場所へ誘導することができる
- 相手の攻撃速度を落とすことができる
- 相手サイドバックを、組み立ての序盤に組み込ませることができる
外誘導する主な狙いは、マリノスの攻撃速度を落とすことだったでしょう。旗手が移籍し、ジェジエウとマルシーニョが不在。足の速さや当たりの強さなどに代表される、アスリート能力がチーム全体で低下しています。今の状態で真っ向からやり合うと、分が悪いと踏んだのかもしれません。
なので、相手の攻撃をゴールから遠い外側に誘導。攻守の切り替え回数も少なくしたいので、激しく奪うことは控えめに。ボールへ強襲する力はマリノスの方がありますので、トランジションの局面を減らしたい意図があったのだと思います。
マリノスの攻撃が外起点になるので、サイドバックが組み立ての序盤に関わる頻度が増えることに。奔放に動くマリノスにおいて、最も相手を攪乱できるのがサイドバックです。そんな彼らがサイド深くに閉じ込められてしまいました。
キック精度の高い松原はまだいいですが、動き出しが長所の小池はパス出しという得意分野ではないプレーをすることに。サイドバックの動きを封じられるので、川崎はマークを捕まえやすかったでしょう。
- 3トップが中央封鎖なので、中盤の選手が大きく動かなければならない
- 相手ゴールが遠い外側でボールを奪うため、手数をかけて攻める必要がある
いい所があれば、悪いところもあります。3トップが中央にいる分、外側のカバーをするのは中盤の選手になります。開いた相手サイドバックに寄せるのは、インサイドハーフの選手。それによってできる広大な中央のスペースは、アンカーである橘田が何とかする形に。
川崎のスカッドにおいて、長い距離を素早く走ることに最も長けているのは橘田でしょう。3トップが中央を塞ぐやり方ができたのも、彼が復帰したからだと思います。
また外側で奪うため、攻撃に切り替わったとき手数をかける必要があります。昨季までは中誘導させることが多かったのは、相手ゴールまで素早く攻め込めるから。しかしうまくいかないと中央を通されるため、ピンチになりやすいデメリットも。誘導する方向からも、セーフティに試合を進めたい意思が伺えます。
空いた中央のスペースを使うマリノス
- 中央を塞ぐ3トップがズレたとき、空いた中央を使う
- サイドに狭めてきたとき、空いた中央のスペースへ浮き球を入れる
基本的に外回しを想定しているので、中央から通された場合は脆いです。上図のように、一気に相手ゴールまで迫ることができます。
ただしルートが中央なので、パスミスなどが発生すると大きなピンチを招きやすいです。なので無理に縦パスを狙う頻度は、あまり高くありませんでした。
川崎は外回しにさせてスペースを狭める守り方なので、包囲網を越える浮き球のパスは有効でした。しかしこの日左サイドに入ったのは龍太。先ほども言いましたが、彼はパスが特別得意なわけではありません。しかも右利きなので、パスを出せる体の角度やボールの持ち方が限られます。実際、上図のパスも出すまでにかなりの時間を要していました。脇坂の寄せは基本的に早かったため、こういったパスが決まることは少なかったです。
リスクマネジメントをした、リスクの冒し方
有効なローリングが内包する脆さ
- 選手たちがローリングすることにより、相手マークを攪乱できる
- しかし敵は中央封鎖をしているため、ポジションチェンジできるのはサイドになる
- 中央の選手が外に寄るため、万が一奪われるとがら空きの真ん中から攻められてしまう
後半が始まり、マリノスの様相が少し変わります。サイドバックが高い位置に上がり、ボランチが外側に開く。代わりにウイングが下ることで、選手たちがローリングするようになります。川崎にとってはマーク相手が頻繁に入れ替わるため、掴みづらいことに。これにより、マリノスが先手を取れるようになりました。
先手を取れたのは、相手中盤の疲労がたまっていたこともあるでしょう。外回りでしたが、左右にパスを回すことで相手中盤を走らせたことが主因。徐々に体力を蝕んだ結果、サイドで得られる時間と空間が大きくなりました。
しかし、このポジショニングにはリスクもあります。それは中央の選手が少なくなること。万が一ボールを奪われた場合、がら空きの真ん中から攻められることになるので、ボランチの守備範囲とボール奪取能力が強く求められることに。
石橋を叩いて渡るような交代
畠中を投入して岩田をボランチに上げたのは、中盤のフィルタリング能力向上のためでしょう。喜田と岩田で広い範囲を守ることが可能なので、他の選手たちは自由に動けるようになります。
龍太が水を得た魚のように勇躍したのも、マルコスが前半より外側に動けるようになったのも、ボランチの守備能力が上がったから。1点目はこの点も影響していたでしょう。
ではなぜ後半頭からやらなかったのか。それは、ローリングの有効性を確認したかったからだと思います。選手交代は5人だけ。万が一失敗した場合、少ない交代枠で別の手段を考える必要があります。それを回避したことから、ケヴィンの堅実な志向が伺えます。
畠中を入れたことで、良質なパスが入るようになったのも変化だったでしょう。しかしマリノスがローリングすることで、多くのスペースを相手に与えることに。それに伴い、試合テンポが上がってオープンな展開になります。こうなると畠中が狭いところに通す機会が減るので、彼のパス能力が活きる場面は少なかったです。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
引き出しの多い昨季王者
自らがオープンになることで試合のテンポを上げたマリノス。しかしそれに対抗できる川崎は、やはり強いチームなんだなと実感しました。
知念、遠野、大島の3枚替え。家長と大島がいる右サイドで作り、フォワード色の強い知念と遠野配置した左で刺す。川崎の2点目はまさに狙い通りだったと言えるでしょう。
その後も小林や佐々木を投入してオープン合戦に対抗。仲川が4点目を決めましたが、個人的には2点差じゃ全然安心できませんでした。
どんな状況にも対応できるだけの選手を抱えており、対応を考えることができる監督がいる。やはり昨季王者は強いんだと強く感じました。そんな相手に勝てたことは、大きな自信に繋がるでしょう。