【2021 J1 第16節】大分トリニータ vs 横浜F・マリノス
スタメン
大分トリニータ
- 前節から2人の先発メンバーを変更
- 松本怜がメンバーから外れる
横浜F・マリノス
- 前節から5人の先発メンバーを変更
- 喜田、扇原、松原がメンバーから外れる
押し込まれる大分
前から行きたいけれど…
- 高畑が積極的に前へ出て町田を押し上げる
- そうなると外にいるエウベルへ出るのは小出
- 坂と小出の間から皓太に顔を出されて大きなピンチに
- これ以降、高畑が前にでる頻度が減少
試合開始からハイプレスを敢行する大分。前に出たい姿勢が伺えます。しかし、後ろの選手たちが全員続いているかというと、必ずしもそうではありません。特にボランチの片方が空くことが多く、マリノスはそこから前進を図ることに。勇気を持って後ろが連動しきれていない大分もですが、こういう小さい隙をしっかり突けるマリノスもさすがだと思います。
また、自陣での守備は両ワイドに差が見受けられました。香川は後ろに残って後方の安全を担保。それとは逆に、高畑は前に出て積極的なボール奪取を狙います。本来香川は長い距離を素早く上下動できるだけの体力と走力を持った選手です。そんな彼を前に出さず、高畑にその役割をさせていました。これはマリノスの攻撃力を警戒したことと、高畑の方が攻撃性能に優れていると考えたからでしょう。あとは選手の志向ですかね。このあたりが絡んでこういう結果になったのでしょう。
さて、高い位置に出た高畑ですが、上図の通り致命的なピンチを早い時間帯に迎えてしまいました。「俺が後ろに残っていればあんなに間は開かなかったはず」高畑がこう考えるきっかけとしては十分だと思います。これを機に前へ出る頻度が減少。後ろに5枚並ぶ時間が増えました。
- ハイプレスがハマらず下がった位置にブロックを形成
- そのブロック守備もかわされ、より失点リスクを下げる方向へ
- 後ろに重いブロックで守備を行う時間が増える
大体このような流れでズルズル下がることになったと思います。結果として大分は押し込まれる展開に。
相手が流動的なポジションを取る中で、最初は前から行こうとしていたのだがうまくハマらず、ズルズル押し込まれていた。狙いを合わせて全員が連動していないと、ボールも奪えないし押し込まれる状態が続いてしまう。コミュニケーションをとって全員で意思統一することが大事だと思う。
このあたり、高畑が上記のようにコメントしていました。連動しきれない大分と、相手を見事にいなすマリノス。こういった互いの様相が、一方的に押し込まれるという展開を生んだのでしょう。
正解が分かれば苦労しないが、自分たちが今まで積み上げてきたものを疑うことなくブレずにやり切るしかない。相手をリスペクトし過ぎている部分もあると思う。自分たちのサッカーに自信を持って体現し、こちらが主導権を握って相手に合わせさせるようにしていかなくてはならない。
また、三竿が上記のようにもコメントしていました。相手をリスペクトするというのは、相手との実力差を認めた上で現実的な対応を取ること。リスペクトし過ぎているというのは、相手との実力差に恐れを抱き、消極的な対応を取ること。今回の場合、マリノス相手に積極的に入ったが、思ったよりかわされることと、大きなピンチを迎えたことで恐れおののいた形だと思います。これを考えると、精神的にもマリノスが優位な状況だったでしょう。
押し込まれることによる影響
押し込まれている状態の大分は、シャドーが中盤の外側を守備することになります。そうなると、中央にいる長沢からの距離が遠くなりますよね。なので、攻守が入れ替わったとき、すぐに長沢へボールを入れると周囲に人がいないことに。
それを避けたい大分は上がるまでの時間を作りたいですが、マリノスの素早いプレスがそれを許さない。結局整える前に蹴り出してしまいます。こうなると、長沢が競り合いで勝ち、かつキープして時間を作ることが求められます。しかし、そうできたのは試合を通じて1,2回程度。畠中やチアゴの牙城は中々崩せませんでした。
- 前に上がる時間を作りたい
- マリノスのハイプレスが時間を削る
- 前へ蹴らなければいけない
- 長沢が孤立して相手にボールが渡る
- 押し込まれるのでシャドーが外側低い位置に
- 最初に戻る
こんな感じのループに陥ってた前半の大分。中々前へ出るきかっけを掴めなかったので、ほとんどが守備する時間だったでしょう。
攻勢に出たことによる代償
後半になってから再び前へ出るようになった大分。今度は全選手が勇気を持ってプレーしたので、押し込まれ続ける時間が減少します。相手を恐れることなく立ち向かう姿勢を感じることができました。
前に出るということは、その分後ろが空くことにもなります。攻守がひっくり返ったとき、守備する人数が少ない状態で対応を強いられることに。上図のように、マリノスがカウンターをして3バックとほぼ同数だった。なんてことが何度かありました。
また攻撃で前へ上がる分、守備で後ろに下がる距離が増えます。当たり前ですが、押し込まれているときより走行距離やスプリント回数が伸びることに。オープン気味な展開になるので、マリノス側も上下動の頻度が増えます。
これらのことにより、攻守の切り替えと走力の勝負へ試合の様相が変化しました。そしてそういうサッカーはマリノスの方が得意としているもの。やはりこれでも優位に戦えたと思います。
押し込んだ相手への対応
押し込んだ相手を崩すことに求められること
この試合、大分を押し込む時間帯が多かったマリノス。そこで求められるのは、ゴール前に人数を割いた相手をどう崩すかです。そういう状況だと、スペースが狭くなりますよね。狭いところでプレーするには、以下のことが問われるでしょう。
- 短い時間で判断する力
- 全員が同じ方向を向いている意思統一ができているか
- 狭いところでボールをコントロールする足元の技術
狭いということは、相手との距離が短いということです。そうなると、ボールを奪いにいくまで短い時間で済みますよね。なので、それまでに次のプレーを決める必要があります。
判断する時間を節約するため、周りの選手たちが同じ絵を描けているといいですよね。次にどこへ動き、どこへパスするか。このあたりの意思疎通ができていると、スムーズに攻撃することができます。
また、狭いところでボールをコントロールする技術も求められるでしょう。狭い隙間を縫うようなパス。足元に吸い付くようなトラップ。これらがないと、相手にボールを奪われてしまいます。
この試合におけるチームの状況
では、この試合のマリノスはどうだったでしょうか。下図を見てみましょう。
この試合に出場してる選手の状況を、よく表していると感じました。一見するとただのパスミスですが、なぜこうなったのかを考えてみましょう。
- いつもの仲川なら抜け出すと思った岩田
- まだコンディションが整っていない仲川
- 度重なる怪我でイップス気味の仲川
- 双方ともレギュラーを奪取する立場にある
- この2人が実戦で一緒に出場した時間はそんなに長くない
いつもの調子の仲川なら、背後へものすごいスピードで抜け出しそうですよね。これはサポーターもそう考える人が多いはず。岩田も同じように考えてパスを出しましたが、仲川は足元で欲しかったようです。
ここで彼の状況を考えてみましょうか。最近怪我から復帰してまだコンディションが整っていない状態。また、昨季負傷が多かったことを反省し、怪我しないことを目標とした今季。それでも怪我をしてしまったので、「全力を出すとまた怪我するのでは?」という思いは強くなるでしょう。こういう恐怖はプレーを委縮させてしまいます。イップスと呼ばれることが多いですかね。このような背景があったからこそ、足元へ要求したのかもしれません。
チームでの立ち位置もありますよね。好調なチームにおいて、彼らはレギュラーを奪取する側にいます。当然いいプレーをしてアピールしたいですよね。得点に直結するパスも、ミスしないように確実性を求めることもよくわかります。このあたりがズレるのは、互いに実戦でプレーした時間が長くないことも影響していると思います。スムーズにいかないのはある意味で当然でしょう。
チームでの立ち位置や、互いのプレー時間をチーム全体から見てみましょうか。この試合に先発した、レオ、仲川、岩田、皓太、小池の5人はレギュラーを奪取する側になります。それでも岩田はチームプレーに傾倒しますが、レオは違いますよね。ルヴァンのとき得点を取るためにボールを要求して動きまくっていたのは印象的でした。このあたり外国人のハングリー精神を感じます。選手それぞれの性格も出たのでしょう。
また、半数がいつも一緒にプレーしているわけではないことになります。どうしてもレギュラー組だけのときに比べて、展開するサッカーの速度や正確性は落ちてしまいます。
僕は(岩田)智輝や(渡辺)皓太と練習でプレーすることが多いので、違和感はなかったのが正直なところ。リーグ戦のスタメンで出続けている選手とやる中で、バランスが崩れている部分もあった。“やりたいこと”と“やれること”の差が気になっていたので、3人で試合前に「チューニングできればいい」と話し合っていた。そこが相手を押し込む要因になったし、オーガナイズして90分戦えた要因だと思う。
それに対するアプローチを小池は語っていました。文字通り、3人はチームを繋ぐ役割を果たしていたように思います。攻撃においてパスの中継点になることはもちろん、守備でも危険なスペースを消していました。自分が成果を残したいのに、他の誰かが上がったらそこを埋める動きをする他己的なプレー。まさにチームを考えてのことだと思います。
ターンオーバーにより、このような状況にある中、チームが大きく崩れずに相手を押し込めたのは彼らの尽力があったからでしょう。あと一歩のところで得点が入りそうなレベルまでもっていけたことに感動しました。
押し込んだ相手に対する1つの答え
- 崩したのはゴール前ではなくサイド
- 十分なスペースを確保し、精度の高いキックができる環境を整える
- ゴール前に相手が多くいても精度の高いキックなら関係ない
得点シーンについて振り返ってみましょう。樺山が中に入ることで下田を内側に引っ張ってきました。それと入れ代わるように天野が外へ。これによりサイドに空間が出来上がります。そこでたっぷり時間を使える中、天野はクロスを上げられることに。これフリーキックと遜色ない状況です。狭い隙間にドンピシャなボールを入れることは、彼の実力を考えれば当然ですよね。
これだけ精度の高いボールを入れられれば、相手が何人ゴール前にいようと関係ありません。ゴール前を崩さずとも、得点を奪うことができます。これってルヴァン杯ホーム仙台戦の得点に似ているんですよね。天野や水沼といった優秀なキッカーがいるので、サイドを崩して時間と空間を得ることも、引いた相手への対抗手段だということを示したと思います。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
複雑な状況での勝利
前述しましたが、この試合のチームは個々人によって様々な立場がありました。サッカーだけでなく、チームってそういうものですよね。そういうバラバラな立場の人間が集まって勝利を求める。そのためにはいかに同じ目標を見れるか。粉骨砕身した選手たちがいたことを忘れてはならない試合だったと思います。
選手を替えた理由の大半がターンオーバーだったでしょう。可能な限り同じメンバーでリーグ戦を戦いたいですが、そう言ってられない日程ですからね。なので、レギュラー組以外にも多くのチャンスがある状況だと言えるはず。「レギュラーを取るぞ!」といった心意気やプレーをボスも期待しているはず。競争のないチームは伸びしろがないですからね。それを考えてもいい試合だったと思います。シーズン終盤は開幕時より多くの選手が変わっているようなチームになれば、優勝も狙えるはず。期待してます。