【2022 J1 第15節】横浜F・マリノス vs 京都サンガFC
スタメン
横浜F・マリノス
- 前節から6人の先発メンバーを変更
- エウベルが負傷により離脱中
- A.ロペスが出場停止でメンバー外
京都サンガFC
- 前節から5人の先発メンバーを変更
- アピアタウィアと川崎が理由不明だがメンバー外
似たもの同士の小さい差
- ハイラインの裏を狙った縦に早い攻撃を志向
- 前から人を捕まえるハイプレスを敢行
- 自分たちのバランスが崩れることをいとわない
- 攻守の志向が似ているが、ボール保持できるかどうかが差として表れる
- こういったことが今季の鹿島戦と似ていた
この日の狙いが相手の背後という点と、ハイプレスを敢行すること。そして、互いにアンストラクチャーな状態をいとわないというところが似ていました。では何で差がついたかというと、攻撃開始のタイミングを任意に選べるかどうか。つまり、ボールを保持できる能力の違いが優位性に表れていたと思います。
これらが今季の鹿島戦によく似ていました。と終わらせてもいいのですが、ちょっと味気ないので、プレスと組み立ての違いについて見ていきましょう。
プレス強度と維持時間の差
- 全選手が素早く相手に寄せる
- 誰がどこへ出るか、スライドもスムーズ
- 京都はアンカーしか組み立てに参加せず、インサイドハーフは高い位置を取る
- マリノスのボランチが前に出る必要がないので、中盤のフィルターが崩れない
マリノスは、最前線の選手から相手へ素早く寄せるプレスを敢行します。どの試合でもベースは同じなので、いつ誰がどこへスライドするかがスムーズ。陣形の噛み合わせがいいこともあり、あまりマークに迷うことがありませんでした。
京都の中盤は形を崩すことが少なく、マリノスのボランチは高い位置にいる京都のインサイドハーフを捕まえればよい形。そのため、ボランチが前に出すぎて中盤のフィルターがなくなることが少なかったです。普段はウタカが下りて相手のマークを攪乱させるのですが、入るスペースがなくなることに。マリノスの背後を狙っていたことも相まって、彼が組み立てに参加することは少なかったです。これも影響し、京都は組み立てがあまりうまくいっていませんでした。
- ウタカがプレスをかけるかどうかは、彼が自由に決めている
- その都合もあり、京都は全員が相手との中間点に位置するところからスタート
- ボールが出た所へ連動してスライドする
- 前へスライドする都合上、中盤が高い位置を取るのでフィルターが不在に
京都はウタカに全面的な自由を与えているようでした。攻撃時の位置取りや、プレスをするかも彼の判断に任せる形。それだけ彼の得点能力を買っているということなのでしょう。当然ながら、この振る舞いはチームに影響を与えます。
京都は守備時、中盤から前の選手が相手の中間に位置取ります。ボールが出た所に前線からスライドし、相手を捕まえるやり方。ウタカが出ようが出まいが、どちらでも対応可能です。
ただし、ウタカが前に出ないと相手に寄せる距離が長くなります。時間がかかるので、プレスの迫力がなくなることに。前へスライドする頻度も高いので、アンカーが高い位置を取ります。その都合上、中盤のフィルターがなくなるのでライン間にボールが入りやすくなることに。
前述した通りマリノスはフィルタリングが効いてるので、中盤に出たボールを喜田がカットする場面が多かったです。しかし京都はセンターバックが出るわけにもいかず、フリーでレオや西村がボールを持てることに。前線と近い位置から相手の背後を突けるので、攻撃の精度が高まります。中盤フィルターの有無は、前線をかわされたら即背走になるかどうかに表れていたでしょう。
組み立て能力の差
- 高丘が組み立てに参加することで、11人で組み立てが可能
- 相手の背後を取る動きやレイオフなどで、京都のプレスをいなすことができる
- センターバックが開いて受けるので、相手のプレス距離を長くさせられる
- 自分たちで時間と空間を作り出せるので、精度の高い攻撃を行える
高丘が組み立てに参加できるので+1を得られるマリノス。ウタカがプレスにいくかどうかわからないので、-1となる京都。センターバックが開いてボールをもらうという、個人の能力の高さも見せていました。総じて、マリノスは時間と空間を作り出せていたと思います。
組み立てをしっかり行えるということは、相手をかわせるということ。そして相手をかわせるのなら、攻撃のタイミングと場所を任意に選ぶことができます。状況に応じて京都の嫌がることを選択できたので、攻撃の精度が上がることに。試合を支配できていたのは、組み立ての積み上げによるものと言えるでしょう。
- 組み立てに参加するのは主にキーパー、センターバック、アンカーの4人
- しかし若原は特別なパス能力のある選手ではない
- センターバックが開いて受けないので、相手のプレスをすぐ受けてしまう
- 時間と空間が作れず、近場に味方も少ないので蹴ることが多くなる
高丘と違い、若原は配球能力において特別なものを持っていません。+1を得られない京都に対し、マリノスのプレスに-1はありません。数的優位を得にくい状況なので、後ろから繋ぐことが難しかったです。また多くの選手が高い位置を取るので、マリノスのプレス速度が緩みませんでした。これも時間を得にくい理由になっていたと思います。
また、個人能力の差も出ていたでしょう。センターバックが開いて受けないので、時間と空間を得にくいです。他の選手も相手に捕まえられやすい立ち位置だったので、ボールがきてもすぐ寄せられることに。京都は窮屈な状態で素早くプレーすることを強要させられていました。
●攻撃力の高い相手に対してどのようにボールを奪って攻めていこうと考えていましたか?
(中略)自分たちはより良い距離を保ちながらボールを奪ってどう攻撃を組み立てていくかというのををテーマにやってきたつもりです。なかなかそのようなシーンが生まれませんでしたが、それは我々がボールを奪えなかったというより、ミスリードしたボールを我々がタッチに切ってしまったり、クリアに逃げてしまったりしたことで相手ボールにしてしまい、相手ボールの時間が多くなってしまいました。あのようなところで、しっかりとボールを動かせるようになれば、さらに一皮剥けたチームになると思います。
左図のようにうまく組み立てるシーンを増やしたかった意図が、曺監督のコメントから伺えます。本職のメンデスでなくボランチの井上を起用したのは、繋ぎに対する期待もあったのだと思います。
繋ぎたいのなら上福元を起用すればいいと感じますが、マリノス相手に守勢になることを見込んで若原を起用した側面もあると思います。理想に振り切るのではなく、ある程度勝ちも見込んでピッチへ送り出す。目指すことを行った結果が勝利だと、大きな自信になりますからね。こういったところに、曺監督のチームビルディング法が垣間見えたような気がします。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
差をまざまざと見せた結果
マリノス相手に特別なことを行わず、いつも通りプレーをした京都。互いに真正面からぶつかった結果、個人の能力の差だったり、チームとして積み上げたものの差が出た形になりました。ハイレベルな環境で、強度と精度の高いサッカーを続けていたマリノスに一日の長があった。と言えるような展開だったのではないでしょうか。
●今日の前線からの守備への評価をお願いします。
前からのプレスが剥がされた場面の方が多かったかもしれませんが、これをやっていかないとチームに力がつかないと思いますし、最初から身構えて無失点の時間を長くしようとは思っていませんでした。それが戦略的に良かったどうかはこれから考えなければなりませんが、実際にマリノスさんと対戦して選手たちが感じた自分たちのプレースピードやジャッジのスピードを忘れることなく、リーグ後半戦に向けてしっかり積み上げていかなければなりません。J1は甘くない世界ですが、昇格1年目で経験の少ない選手がいる中でアジャストしていくためにも、今日の試合は自分たちの教材にしていかなければなりません。その教材というのは、今日、このように戦ったからこそ感じられたことだと思っているので、そこは継続してやっていきたいと思っています。
J1を経験したことのある曺監督ならではのコメントだと感じました。自分たちの目指すものを表現しきらなければ、J1では生き残れないと考えているのでしょう。強敵相手に同じことを貫き、何ができたか、何が足りなかったかを肌で感じることが大事。そしてこの試合の経験を今後に繋げられれば、意味のあることだったと言えるはず。
京都は既に、アンストラクチャーな状況で判断する力はリーグ屈指のものがあります。ここにプレースピードと組み立て能力が積み重なれば、厄介なチームになるはず。再戦するときはより手強いチームになっているでしょう。
【2022 J1 第11節】浦和レッズ vs 横浜F・マリノス
スタメン
浦和レッズ
- 前節から2人の先発メンバーを変更
- 大畑、酒井、犬飼が負傷で離脱中
横浜F・マリノス
- 前節から5人の先発メンバーを変更
- エウベルが負傷で離脱中
- 岩田が負傷から復帰してベンチ入り
リスクをかけたくない浦和
リスクを減らすための振る舞い
- 前を向いてる状態でも、フォワードの背後へ放り込む頻度は低い
- 2失点したあと、関根を下げて5レーン全てを塞ぐようになる
- いずれも試合のテンポを落としてクローズドに進めたかったことが伺える
ロングボールを多用せず、地上戦を仕掛ける。守備変更がハイプレスではなく、最終ラインを埋めること。双方ともマリノスのスピードや技術力など、個の質を発揮させないための方策だったように思います。関根を下げたのは、去年のアウェイ浦和戦で田中達也を下げたことと同じアプローチでした。
(試合終盤、西川周作選手がパントキックを蹴った場面があったが、西川選手がパントキックをつなげてシンプルにゴールを狙うような場面はしばらくつくり出すことができていない。その一つだけでも観客は沸くと思うし、得点機会も増えると思うが?)
「そうではない、とは思いません。我々もああいう状況はあったかもしれませんが、あのときにああいうふうにリスクを冒す場面もあったり、ときには2トップが前線にいて背後に出たり、そういう縦に速くするところも必要でしょうし、今日のようにリスクを冒しながらプレスに出ていくところも重要だと思っています。その考えについては決して悪くないと思いますし、そのように我々が、勝つためにリスクを冒してやっていくことも必要だと思っています」
監督会見で、「リスクを冒す」という言葉が多く出ていることが印象的でした。ときには危険を承知で行動しなければいけないが、常時そうであるわけにはいかない。後半は点差が開いてしまったので、勝つために実行したという意図が伺えます。つまり、前半の戦い方で相手を上回ることが本懐だったのだと思います。
遮二無二攻めなければいけない状況に
- 裏を狙ったフォワードにロングボールを入れる頻度が増える
- ミドルブロックでなく、前から人を捕まえるハイプレスに変更
- 3点差を返すためにリスクを冒す形になる
浦和は後半から背後へのロングボールや、ハイプレスを敢行。これに加え、関根やモーベルグをサイドバックで起用。なりふり構っていられない状況だということが、強く伝わってきます。
3点差を返すのは並大抵のことではありません。そういった状況でも後半からメンバーを替えなかったのは、変更したやり方が効かない場合の保険だったのかもしれません。こういったことからも、リスクを嫌う監督だということが伺えます。
積極的なプレーを実行するので、選手たちがリスクを冒す勇気を持てるかが重要になります。3点差もつけられると、選手たちは意気消沈するはず。その心を奮い立たせ、戦えるように導いたリカルド・ロドリゲス監督は優秀なモチベーターなのだと思います。それはスタジアムでの熱い振る舞いからもわかりますよね。
--前半は厳しい展開だったが、アップしながらどう試合を見ていたか。
本当にサッカーというのは流れがあるスポーツで、前半は難しい時間でしたが、ハーフタイムでは誰も折れていなかったですし、いろいろな意見を出し合っていたので、もう1回息を吹き返せるなと思っていました。
松尾がこのようにコメントしていました。下を向いて黙るのではなく、状況を打開するために意見を出し合っていたようです。今の浦和は非常にいい状態なのだと感じました。メンタル面の成熟も、チームを作る上で重要な要素です。選手、監督共に考えて前へ進もうとしているのでしょう。こういった姿勢が3点を返す結果を生み出したのかもしれません。
自分たちのサッカーをしてリスクの低減を
ケヴィンが目指すサッカーの解釈
前節の湘南戦にも書いたのですが、ケヴィンのサッカーはリスク低減を目指しています。ピッチ上では、敵陣で自分たちがボールを保持し続ける、という形で表れているでしょう。自ゴールから遠い場所にボールがあれば、失点する危険性を下げられるからです。
- 明らかに優位な状況でないのなら、無理に攻めず保持に切り替える
- ボールを失ったら、近くにいる選手が素早く寄せて即時奪回を狙う
- 手薄な箇所にボールを入れると、パスが繋ぎにくくなる
- 即時奪回も狙いにくいので、ハイラインが高いリスクになりやすい
- 無理せず繋ぐことで、敵陣で保持する時間を増やせる
- 左右に振ることで相手を走らせることもできる
マリノスはスペースを作るため、選手たちがポジションにこだわらず立ち位置を変えます。つまり、繋ぐためのアプローチが選手の移動になるのです。選手が動かなければリスクの低減に繋がりますが、そういうやり方をしたことがないです。練習でやっていないことをいきなり実践できないですよね。なので、リードを守り切るために動かないという選択肢はありません。
では、リスクを低減するにはどうすればいいでしょうか。素早く攻めて選手間の距離が広がれば繋ぎにくいですし、即時奪回のための囲い込みも難しくなる。つまり、コンパクトな陣形を敷きつつ、敵陣方向への圧力を強めることが求められます。パスを繋ぐために動き回るデメリットが、即時奪回で薄まることに。
なので前線の強度を維持することがチームの安定に繋がります。前線4人を入れ替えたのは4点目を入れるためと共に、ハイプレスの強度を保ってリードを守るためでもあったでしょう。
しかしハイプレスがそこまで激しくなく、攻撃も速攻が多くなります。オープンなときに素早く攻めるのは、アンジェ時代に良く執られている方法でした。ここに引っ張られすぎるのは、ケヴィンの意向に沿わない部分だと思っています。
結果として敵陣で過ごす時間は前半より減ることに。前述した通り、点を取るにもリードを守るにも、敵陣に居続けることが今のサッカーで求められます。その土台ができていないので、4点目を取っていればとか、リードを守り切ればとか言える状況ですらなかったと感じました。(あくまで筆者の一意見です。他の受け止め方もたくさんあると思います。)
うまい試合運びとは
- どんなプレーにもメリットとデメリットがある
- 状況に応じてリスクリターンを考えて、都度行動を選択しなければならない
- 試合状況によって最適な行動を選ぶことが、うまい試合運びと言えるのではないか
マリノスは選手が動くことで、メリットとデメリットを享受します。なので、いつどこに動くかが試合運びに繋がることに。上図は極端な例ですが、左はビハインドのとき、右はリードしているときに取りやすい行動でしょう。言葉を変えると、追加点を狙う場合は左ですし、失点を防ぐ場合は右のように動くことに。
では、動いただけでその通りのプレーができるでしょうか。パスがこないとダメですよね。サッカーはチームプレーです。お互いが共通認識を持たないと思い描いたプレーができません。
浦和戦の状況を思い描いてください。ユンカー得点後の1-3だとしましょう。2点リードしている状況で、あなたは点を取りにいきますか?それともリードを守りますか?
攻撃に入った時点で、ゴールに向かいすぎる部分があった。敵陣でもう少し相手を動かせれば、相手も嫌だったと思う。深く攻めたときに、一回我慢して、敵陣で握る時間を後半増やせたら、もう少し楽だったかなと思います。
こちらが皓太のコメント。
きのうの試合から学ぶべきことは、3―1の状況から出て、そこから4点目、5点目を取りに行く姿勢をもっと見せるべきだった。失点はしないというのが大前提だったので、チームを全体的にコンパクトにして、もっと(スペースを)閉められるようにした方が良かったかなと思います
こちらが岩田のコメント。
敵陣で時間をかけるべきか、それとも速攻で早く攻めるのか。コメントだけだと、皓太と岩田が同じ絵を描いているかがわかりません。人の考えや意思は、そのくらい曖昧なものなのです。
なので気持ちを合わせるためには、声掛けが重要になります。どういうプレーを自分がしたいのか。周りにどういうプレーを求めているのか。試合中でもいいですし、試合後の振り返りでも構いません。今回の試合でどうすべきだったかをすり合わせ、こういうときはこうやろうと話し合えればいいと思います。小さな積み重ねがやがて大きなものを得る力になるはずです。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
試合の反省を形に変えられると信じて
まだまだ未熟だということです。ゲームの流れを読む力も、ゲームの運び方も、チームとしての未熟さが出ました。マリノスの勝利を信じてくれた人に対し、申し訳なく感じています。ただ、見せたいのは謝る姿や下を向く姿ではありません。見せたいのは立ち上がる姿です。選手は全員、悔しいし、ふがいない気持ちでいるけど、その気持ちに圧しつぶされるのではなく、それでも前を向いて立ち上がる強さを見せたいです。
うまい試合運びをする上で、個の判断は重要です。そして同じくらい、チームとしての意思統一も大事になります。マリノスには様々なタイプのリーダーがいるので、この試合を必ず糧にしてくれると信じています。
結果3-3の引き分けになりましたが、これもチームを1つ大きくするいい経験になったのではないでしょうか。新しい選手も多く加わり、認識を合わせることが難しくなっています。そのすり合わせをきちんと行い、次節の福岡戦で改善に向けたアプローチが見られることを期待しています。
【2022 J1 第13節】湘南ベルマーレ vs 横浜F・マリノス
スタメン
湘南ベルマーレ
- 前節から1人の先発メンバーを変更
- 瀬川が出場停止でメンバー外
横浜F・マリノス
- 前節から3人の先発メンバーを変更
- 前節負傷した岩田とエウベルがメンバー外
ボールを保持することで安全性が損なわれるマリノス
狙うは相手の背後
- 最優先の狙いは浅い守備ラインの背後へボールを送ること
- ディフェンスラインが前を向けたら、そこへ放り込んでもよい
- 低い位置のサイドバックには時間があるため、ここを起点にしやすい
ハイプレスでくる湘南は、ブロックをコンパクトにするため守備ラインが高くなります。マリノスとしてはその背後を狙いたい。という思いが全面的に出ていたように感じました。守備陣から一息にロングボールでもよし。相手を動かして地上戦で繋ぐもよし。手段は問わない形ですが、フォワードが抜け出すというゴールは同じ。
湘南の守り方は名古屋戦の前半と同じなので、噛み合わせ上サイドバックに時間を作りやすかったです。右図のように水沼がサイドチェンジできたのも、小池が余裕を持ってパスを出せたから。戸田さんが解説されていましたが、名古屋戦を反省して高さに気を遣っていたことが伺えます。
保持することを優先した結果
- 湘南の激しいプレスに対して、『奪われたくない』という心理が強く働く
- 最前線のフォワードが背後へ抜け出せるのにバックパスを選択
- 前へ繋げる状況なのにバックパスを選択
- 結果的に自陣で過ごす時間が長くなる(ボールロストするのも自陣が多くなる)
湘南の苛烈なプレスに対し、ボールを失う場面が増えるマリノス。「相手に奪われたくない」という心理が徐々に強まっていきます。その結果、最優先にしていた相手守備ラインの背後へボールを送る回数が減っていくことに。
--前半、10本以上のシュートを打たれました。それはビルドアップがうまくいかなかったことと相関性があるように感じます。見解を聞かせてください。
仰ったように、特に前半は足りていない部分がありました。ビルドアップで自信がなかったのか、後ろ向きな気持ちになっていたのか、すべてのボールを前方向に動かしたいにもかかわらず、後ろに戻すシーンが目立ちました。左の仲川(輝人)にしろ、右の水沼(宏太)にしろ、良い動き方があった中で前方向ではなく、セーフティーな横パスやバックパスが多い前半だったと思います。
怖がってプレーしていれば、何も始まりません。大事な場所でボールを失わず、いけるときは前方向に向かっていかないと、自分たちの良さも出せません。特に前半はそのような部分が目立ってしまいました。
ケヴィンのコメントがこの試合の様相を表していたように思います。自陣からボールを遠ざけることでリスクを減らす。という考えがケヴィンの根底にはあるはず。安全性を求めてバックパスを選択しているが、失点の危険性は増していく。選手たちの狙いとは矛盾した状態が生まれていました。(DAZNでもわかるくらい、ケヴィン怒ってましたしね…)
水沼が逆サイドに展開しようとして相手に引っかかるも、ボールは敵陣方向に進めていました。その結果、敵陣でプレスをかけることができて先制点を獲得。この出来事が象徴するように、自陣でボールを持っていても得点チャンスは生まれません。そもそも前向きな姿勢こそが、マリノスの目指すスタイルですしね。
主導権を握るも決められない湘南
素晴らしいハイプレスと粗雑なフィニッシュ
- ハイプレスにより、高い位置でボールを奪える
- 後ろから湧き上がるように人が出てきて、空いている背後を狙う
- マリノスのプレスが速いので、選択をすぐに迫られる
- 周りと連携できず、粗雑なフィニッシュが増えてしまう
リーグ随一の走力を活かしたハイプレスは強烈でした。序盤は湘南がボールを奪うことが目立ち、優位に試合を進めたいたでしょう。しかし効果的なショートカウンターは中々打てませんでした。
切り替え速度はマリノスも早いです。「ボールを奪ってから次のプレーを選択する時間が短い」と湘南選手たちは感じたはず。その結果すぐにミドルシュートを撃ったり、近くの選手へパスするなどが多発。
サイドにスペースがあったので逃げやすい状況でしたが、そこにいるのは石原と畑。彼らはクロス精度に特別なものがあるわけではありません。それをわかって山口監督は起用してるはずなので、後ろから追い越していく選手にパスをつけることを求めていたのでしょう。古林ならば能力を発揮できましたが、それは結果論になります。
ボールは奪えているが、得点ができない。質が足らなかったこともそうですが、高丘のセーブも相手の心をくじく1つの要因だったでしょう。それに重なり、自分たちのミスから先制点を与えてしまいます。湘南のメンタルは大きなダメージを受けたことでしょう。次第にハイプレスの勢いが弱まり、攻撃にも焦りの色が見えだしました。
立て直したメンタルと人をかけるリスク
- メンタル面の回復を主目的に、町野と田中聡を投入
- ビハインドということもあり、攻撃に人数をかけるようになる
- 前半に比べて分厚い攻撃ができるようになったが、後方が手薄になるリスクも
--いま仰ったように立ち上がりはとても良かったと思います。ですが先制されてからは主導権を握られ、苦しくなった要因はどこにありますか?
ミス絡みでの失点ということで、(メンタル的な)ダメージが大きかったと思います。ただ、前半に関しては0-2と良くはないですけど、ガタガタっと崩れてすべてが悪かった前半ではありませんでした。
立ち上がりに1つでも取れていたら。フィニッシュの状況もゴールへの確率が高い状況でした。ミスなので責めはできないですけど、点を取れなかった状況が良い状況だっただけに、ゼロで進んでしまったことが非常にもったいなかった。それはいまのウチにとっては大きなポイントになります。
山口監督のコメントから、精神面へのダメージが伺えます。そんな湘南は、後半頭から町野と田中聡を投入。大橋や米本が悪かったというより、チームに勢いを与えたかったことが主な理由でしょう。「ポジションを奪ってやる」という気持ちを持つ主力級の選手を投入し、前向きなメンタルを持たせます。
攻撃に人数をかけることができるようになり、前半より効果的に相手ゴールへ迫れるようになりました。背後への抜け出しからクロス、相手を背負っての落としなど、大橋よりやれることが多い町野の活躍が目立ちました。しかしまたもや立ちはだかる高丘の壁。この試合勝てたのは間違いなく彼のおかげだと思います。
攻めに人を割く分、守備面が手薄になるリスクが生まれます。3点目のように同数以下で守る場面が増えることに。湘南は今季複数得点がありません。なので、2点のビハインドを跳ね返すことが重くのしかかっていたのでしょう。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
メンタルの重要性を再確認した試合
試合序盤は湘南がいい精神状態で入れたが、得点が決まらず徐々に下がることに。後半は開き直り半分でしたが、前向きな気持ちを取り戻していたと思います。相手を上回るには、いいメンタルを保つことが重要だということがわかります。
それはマリノスにも言え、消極的な気持ちで前半を過ごしてしまいました。自陣でのロストが、後ろ向きな心に拍車をかけます。うまくいかないながらも得点を取れていましたが、それで心の余裕が生まれているようには見えませんでした。少々ナーバスな状態で過ごしたので、バタついた試合展開になってしまいました。
とことんうまくいかない試合でしたが、勝って反省できるのはよかったと思います。ここから連戦が始まる中、勝利でスタートを切れたのはいいことでしょう。この勢いを持って次に臨みたいです。