【2021 J1 第28節】サンフレッチェ広島 vs 横浜F・マリノス
スタメン
サンフレッチェ広島
- 前節から2人の先発メンバーを変更
- コンディション不良で離脱していた、野上とサントスがメンバー入り
- ハイネルは出場停止のためメンバー外
横浜F・マリノス
- 前節から4人の先発メンバーを変更
- チアゴはこの試合でも復帰せず
あちらを立てればこちらが立たず
守備の安全と攻撃力不足の天秤
チアゴと畠中の負傷により、この日センターバックコンビは岩田と實藤。彼らが揃って先発するのはこの試合が初めてです。慎重になるのは当たり前ですよね。彼らがあまり開かなかったのは、そういった事情があったからかもしれません。
また、広島はピッタリ人を捕まえるハイプレスを敢行。今季のマリノスはこういった相手に対し、奪われないことを重視しています。具体的には、自陣に人数をかけてビルドアップの安定を図ることです。後ろに重たくなりますが、奪われた後のリスクを考えてのこと。
こういった理由と、パスレンジの広いティーラトンが先発だったこともあり、彼を後ろに残した3バック気味の形で組み立てを行っていました。これなら万が一奪われても、後方中央に人がいるから安心です。
代わりに前線が薄くなりますが、そこは扇原が上がることでカバー。前と後ろを繋ぐ役割をすると共に、左サイドに残したティーラトンと合わせて柏対策にもなっていました。
ここまで書いた通り、守備的な思考に寄っています。その代償として、攻撃力を失っている状態。前からくる広島を受ける形になってしまったのは、必然だと言うべきでしょう。
やりたいことと得意なことが微妙に違う
- 先発している前線メンバーだと、遅攻より速攻の方が得意
- しかしこの日はビルドアップに人数をかけているので、前に人が少ない
- 相手守備陣の方が多い状況で、速攻を仕掛けても成功しづらい
- ボールを奪われた場合、前に人数がいないので即時奪回がやりにくい
前述した通り、後ろに人数をかけるので前は手薄な状態。それにも関わらず速攻を仕掛けるのは、スカッドの特徴からでしょう。特に大然は裏への抜け出しが一番の持ち味ですからね。
しかし、多くの場合で広島守備陣の人数が多い状況。そこで仕掛けても成功しづらいし、即時奪回も決まりにくい。後ろに人が多いことも合わさり、マリノスのプレーエリアは低くなりがちです。
--具体的に後半、何が良くなったのでしょうか?
距離感や連動性が前半は良くありませんでした。前からアグレッシブにプレスに行きましたが、そこを外されて突破された場面もありました。ハーフタイムにそこを修正しようと伝え、それをピッチで表現してくれ、結果を残してくれました。
ケヴィンがこのように評しているのは、安全な組み立てを行って前後の距離が開いてしまったからでしょう。
ケヴィンの志向として、敵陣に押し込むサッカーがしたいというものがあります。相手陣内に多くの選手を送り込み、近い距離でテンポよくボールを回す。相手に奪われてもすぐ取り囲んで即時奪回を狙う。これにより、自分のゴールから遠いところで、長い時間試合を進めることができます。
これを実現するには、組み立てから崩しのフェーズに入ったとき急がないことでしょう。上図のようにすぐ縦に展開するのではなく、一旦下げて段階的に進む。相手を徐々に押し込み、自分たちは前線に人数をかけていく。
しかし、大然を始めとする今のスカッドはスピードが売り。前にスペースがあるうちに仕掛けたい選手が多いのです。これって押し込むことと真逆ですよね。ボールが両陣を行き来する展開になりがち。監督がやりたいことと、選手が得意としていることに微妙な差があるように思います。
相手の出方に応じた組み立て変更
- 飲水タイム後から、センターバックを開かせてビルドアップするようになる
- これにより、両サイドバックを高い位置へ送れる
- 崩しに人数をかけられるので、近い距離でテンポよくパスが回せる
- 奪われても取り囲んで即時奪回がしやすい
1点を奪って相手が引っ込んだこと。自分たちの問題を解決するため、センターバックが開くようになったこと。これらが合わさった結果、飲水タイム後からマリノスが相手を押し込めるようになりました。
--前半の飲水タイムを境に流れが変わりました。どう変化をつけたのですか?
飲水前はCBが内に絞っている形が多かったと思います。(高丘)陽平を使いつつ、外に開きました。真ん中のスペースをうまく使い、ボランチが良い状態で受けられるように意識しました。相手がプレッシャーに来ていたので、前半最初は絞るか、外に開こうか、自分の中でも試行錯誤していました。思い切って開いたことで、相手も捕まえ切れない状況が生まれ、そこからペースを握れました。
實藤もこのようにコメントしています。初めて岩田と組む中、相手は前からくる。どのくらい慎重になるか、試行錯誤していたようです。このあたりは前述した通りになります。飲水タイム後にガラッと変わったのは、彼らがプレーを変えたことも一因だったでしょう。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
守備への自信が生んだ消極性
この試合、広島はベストな3バックが揃いました。この3人が堅固なのは周知の事実ですよね。マリノス相手でもある程度守り切れる自信があったのだと思います。川崎相手に引き分けに持ち込んでる実績もあります。
また、ハイプレスは90分間続けられるものではありません。どこかで必ず休む必要があります。これらを加味した結果、得点後に後ろへベクトルが向いたのも頷けます。
--前半で逆転され、試合が難しくなりました。
自分のゴールが生まれたことで、無意識かもしれませんが、チーム全体の重心が後ろに掛かってしまいました。横浜FMはクオリティーが高いので、そこを突いてきました。
こちらはドウグラス・ヴィエイラのコメント。後ろに下がったことは選手たちも感じていたようです。しかし飲水タイム後も大きく変わらなかったので、城福監督としてはある程度下がってもよかったのかもしれません。敵陣からのセットプレーのみ前から行くなど、メリハリをつかれば体力節約にもなりますしね。
不運だったのが大然のゴール。中央に人数は揃っていたし、あそこでミドルを撃たれることは想定内。しかし、コースが変わって失点してしまいました。そして更なる失点を重ね、ビハインドで折り返します。
こうなると前半頭で行っていたハイプレスを持続させる必要があります。しかしそこで点が取れず、逆に失点を重ねることに。もう四の五の言ってられません。オープンにしていいので、フォワード色の強いサントスと浅野を投入。この時点で広島のやりたいことは破壊できたと思います。
--序盤が良かっただけに、前半の2失点が痛かったのではないでしょうか?
前半ハイペースでいったぶん、ペースが落ちたところでピンチを招いてしまいました。そうなったときにどうするのか、そして、自分たちの良かった時間帯にチャンスが多かったので、そこの精度、クオリティーが重要です。ここ数試合、前半、ハードワークし良い守備からボールを奪えているシーンが多い。それをいかにゴールにつなげるか。奪ったことに満足せず、ゴールを目指していかないといけません。
佐々木がコメントで振り返っていたように、前から行った分きめる必要があったでしょう。それか得点を奪っても、前から行き続けるとかでしたかね。まぁ結果論ですが…
マリノスとしては、相手が引いたことで改善のきっかけを掴めたと思います。それを逃さなかったチームは素晴らしいですし、チャレンジ精神も称えられるべきでしょう。したたかに試合を制したと思います。