【2022 ACL】ホアンアイン・ザライFC(HAGL)の特徴と傾向
ベースシステム
- 一貫して3-5-2の布陣
- 攻撃時は目一杯広がって攻める
- 組み立ては前進するというより、相手を自陣へ誘引するのが主目的
- 守備時はオーソドックスな5-3-2
- 足の速い9番が裏に抜けることで得点を量産
- 10,6、17番はベトナム代表
- フォワードの控えに、水戸や山形に在籍していたジェフェルソン バイアーノがいる
主な攻撃方法は、自陣へ誘引するビルドアップ。そのまま前進するというよりは、相手を縦に間延びさせ、いい状態で中盤3人につけることが主目的です。2019年の大分トリニータを想像するとイメージしやすいかと思います。
守備方法は5-3-2のブロック守備。前線の5枚で中央封鎖しつつ、サイドはウイングバックが縦スライドで対応。特徴は最終ラインが高いこと。縦に圧縮してスペースを消します。
全体的なやり方は、2020年に対戦した上海上港(現:上海海港)に似ています。当時の記事が参考になるでしょう。
リーグ戦の全得点から見られる傾向(21シーズン)
得点方法
- 裏抜けやカウンターなど、縦に早い展開での得点が目立つ
- 中盤選手によるミドルシュートも兼備
- セットプレーからの得点はない
背後へ抜け出すことによる得点
ミドルシュートによる得点
HAGL最大の武器は背後への抜け出しです。低い位置で相手からあまりプレッシャーがかからない中、精度の高いキックを持つ中盤の選手たちがスルーパス。前にいる2トップは足が速いので、守備陣を置き去りにしてゴールに迫ります。
また、ミドルシュートによる得点も多いです。全て中盤の選手たちによるもので、パンチあるシュートを持っていることがわかります。
得点者とアシスト者
- 足の速い9番と、トップ下の10番で得点を量産
- 外国籍フォワードのブランドーは得点よりアシストで貢献
- 主な得点は前述した9、10,30番が絡んでいる
クロスによる10番の得点
2トップの一角である9番のNguyen Van Toanはクロスが3点、背後への抜け出しで2点、PKで1点。トップ下である10番のNguyen Cong PhuongはPKが3点、クロスで2点、ミドルで1点が内訳になります。
9番のNguyen Van Toanに上げられたクロスは、いずれもフォワードの相方であるブランドーによるもの。2トップだけで攻撃を完結させられることがわかります。
クロス関連について
- クロスを上げる位置は様々だが、合わせるのはほとんど中央
- グラウンダーのクロスを足で合わせる形が多い
- クロス最多数は2トップであるブランドー
ブランドーによるクロス
2トップの片方であるブランドーは、斜め外への抜け出しが多いです。後方から長いスルーパスを受け、サイドからクロス。相方のフォワードにボールを送ります。彼のアシストはほぼ全てがこの形。HAGLお得意の攻め方です。
リーグ戦の全失点から見られる傾向(21シーズン)
失点方法
- クロスに関する失点が最多
- しかし試合数が少なく、特別な傾向が見られない
ミドルシュートによる失点
コーナーキックによる失点
試合数が少なく、さらに失点も少なかったので特別な傾向はわかりませんでした。
クロス関連について
- ローポストをえぐられ、中央かファーでの失点が多い
- とはいえ、サンプル数が少ないので何とも言えない
クロスによる失点
こちらも数が少ないので何とも言えません。
得失点の時間別割合
- 前半開始直後と、後半の得点が多い
- 前後半開始直後の失点が少ない
- とはいえ試合数が少ないので何とも言えない
前後半共に、開始直後に得点が多く、失点は0。ここから、最初の15分に強いチームだと言えるかもしれません。ただ試合数が少ないので、何とも言えないと思います。
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2021シーズンのV1リーグハイライトになります。
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【2022 ACL】全北現代の特徴と傾向
ベースシステム
2019シーズンの情報
前回ACLに出場したときに2019シーズンをまとめてありますので、こちらも掲載します。2021シーズンから監督が変わっているので、その変化を見ると面白いかもしれません。
今季のベースシステム
- 基本的には4-1-4-1の布陣
- 今季はイルチェンコを先発起用している
- 点が取れないときにグスタボを入れ、強力外国籍2トップで無理やり得点を狙う
- 昨季アシスト王のキム ボギョンは基本的にベンチスタート
- 21年シーズンから監督がキム サンシクに交代
全北は4-1-4-1を基本的な布陣としています。昨季は様々なフォーメーションを使い分けていましたが、今季はこの形を固定。メンバーも19年とは大きく変わっておらず、チームのベースは同じと見てよいでしょう。
19年との違いは2つ。まず、外国籍フォワードであるイルチェンコの加入があります。後述しますが、グスタボと各々リーグ15得点を挙げる活躍ぶり。基本的に調子の良い方が先発しますが、得点が奪えないともう片方を入れて力でねじ伏せにかかることも。
次に監督が変わったことが挙げられます。19年はポルトガル人のジョゼ モライス元監督でしたが、今は韓国人のキム サンシクが監督を務めています。こちらも後述しますが、クロス一辺倒なポルトガルスタイルではなくなりました。その要素をほんのり残しつつ、攻撃の縛りが薄くなった印象です。そこまで得点を挙げていなかったグスタボが、チーム最多得点者になったことが変化を表しているでしょう。
ちなみに3/27現在で、リーグ戦は1勝2分3敗と調子を落としています。ウイングの人選に悩んでいるらしく、その影響からか3得点しか奪えていません。しかし中盤から後ろは選手が変わっていないので、3失点以上した試合はないです。ある程度安定した守備は健在のようです。
リーグ戦の全得点から見られる傾向(21シーズン)
得点方法
- クロスが最多の得点パターンだが2019年より減少している
- セットプレーからの得点も多め
- カウンターやスルーパスからの得点が2019年より増加している
スルーパスによる得点
ロングカウンターによる得点
コーナーキックによる得点
クロスによる得点割合は2019年より少なくなっていますが、ゴール数はほぼ同じです。単に、他の方法で点が取れるようになったということになります。それは監督交代により、クロスという縛りがなくなったことが大きいでしょう。
スルーパスからの得点は、3点がイルチェンコのアシストからになります。動画からもわかるように、得点をお膳立てできるタイプのストライカーです。
また、ロングカウンターも兼備しています。シンプルなカウンターは、外国籍選手のスピードやフィジカルを最大限活かすことができます。グスタボの得点が増えたのは、これも関係しているでしょう。
セットプレーは8得点がコーナーキックから生まれています。蹴る場所はニアか中央への浮き球がほとんど。相手ブロックの間に入れられる、キック精度の高い選手が何人かいます。彼らのボールに頭で合わせる形になります。
PKについては、裏抜けした選手が倒されたものが5つ。クロス関連が4つになります。これらを加味しても、裏抜けによる攻撃は持ち味の1つだと言えるでしょう。
得点者とアシスト者
クロスによるグスタボの得点
スルーパスによるイルチェンコの得点
ロングカウンターによるキム ボギョンのアシスト
グスタボはクロスから7点、PKで5点、その他3点。イルチェンコはクロスから4点、PKで4点、スルーパスから3点、その他4点がそれぞれの内訳になります。クロスは両名共に頭と足がほぼ半々。どちらも得意としています。
キム ボギョンはクロスから4アシスト、カウンターが3アシスト、コーナーキックから2つ、その他1つが内訳になります。精度の高い左足と、素早く広範囲に走れるモビリティを兼備している選手です。
クロス関連について
- クロスを上げる位置はアーリーかローポストが多い
- 受ける位置は中央かファーが主
- 浮き球にて頭で合わせる形が若干多い
キム ボギョンのクロス
イ ヨンのクロス
クロスは深い位置か浅い位置の二択。主に関わるサイドバックとインサイドハーフは、どちらからでも良質なボールを供給できます。
2019年との違いはインサイドハーフが上げ、ウイングはあまり上げないこと。ウイングは低い位置でサイドのコンビネーションに参加したり、内に絞ったりもします。クロスという明確なルールが薄れたので、捕まえにくい存在になっているかもしれません。
リーグ戦の全失点から見られる傾向(21シーズン)
失点方法
- カウンターや裏抜けからの失点が目立つ
- セットプレーからの失点も多い
裏抜けによる失点
ロングカウンターによる失点
コーナーキックによる失点
相手を押し込むが故の、浅くなりがちな最終ラインは相変わらず弱点の1つです。2020年のACLアウェイ全北戦の2点目のような形が再び狙い目になるはず。
セットプレーはコーナーキックからが4失点。ゾーンで守るので、間にドンピシャなボールを挙げられると厳しいようです。
クロス関連について
- 中央やファーからの失点が多い
- 浮き球を頭で合わせられるものがほとんど
浮き球クロスによる失点
浮き球クロスが弱点のようです。ボールウォッチャーになることもそうなのですが、前を向いての守備でないため、跳ね返す難度が上がっています。これはラインを高くしている影響でしょう。
得失点の時間別割合
- 得点は後半が圧倒的に多い
- 前半終了付近か、後半の深い時間に失点が多い
前半は相手も体力があることと、自分たちがリスクを冒して得点を奪いにいかないため、得点が多くありません。主な得点は後半。時間が深くなるにつれて増加しているのは、強力外国籍2トップの影響でしょう。最後に取り切る力があるチームだと言えます。
失点については前後半の深い時間に多いです。コンパクトな陣形を組む体力や集中力が切れる時間帯がこのあたり。特に後半に顕著なことから、1試合通して同じパフォーマンスを維持することが難しい様子。攻撃的になる分のリスクかもしれないですが、深い時間は狙い目になるはずです。
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2021シーズンのK1リーグハイライトになります。
Transfermarkt
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【2022 J1 第8節】鹿島アントラーズ vs 横浜F・マリノス
スタメン
鹿島アントラーズ
- 前節と全く同じ先発メンバー
- ピトゥカが出場停止
横浜F・マリノス
- 前節から8人の先発メンバーが変更
- マルコスと海夏が負傷離脱中
手札の数に表れたチーム成熟度の違い
鹿島のやり方
- 最前線に2トップと両翼が位置取る
- ボールサイド3.5レーン分くらいに寄る
- 選手の配置は自由だが、動き方にやんわり約束事がある
- 和泉は1列上がってトップ下化する
- 中央の片方は背後へ抜け出す
- もう片方は後ろへ下がる
- 横か後ろのサポートに入る
- (必要であれば)大外をサイドバックが駆け上がる
縦に早い攻撃を志向する鹿島。ただ、無闇に放り込むわけではありません。上述した動きをするため、かなりな人数を前に送り込みます。
主な理由は2つ。放り込んだこぼれ球を拾いやすくすることと、奪われても即時奪回を仕掛けられるからです。
動き方のルールにより、ボールを入れる周辺へスペースを作ることが可能。中央2人の前後移動で縦方向。両脇にいる選手で横方向に広げて局所的な空間を生み出します。ボールサイドによるのは、大外にサイドバックが上がるスペースを作りたいからでしょう。
敵陣への侵入方法はこれが主な形。なるべく相手を押し込むべく考えられたものだと思います。マリノス相手にハイプレスを敢行できるので、相性としてもよいものだったでしょう。
ビルドアップに表れる、時間の作り方の違い
マリノスの組み立て
- 噛み合わせ上、浮いている西村に当ててレイオフしてもらうことが多かった
- 鹿島は前に人数をかけているので、抜け出せばフィルターは樋口のみ
- サイドバックが絡めば、すぐ最前線へつけることができた
- 優位な状況で高い位置へボールを運べるので、攻撃に時間をかけられる
ポイントはトップ下に入った西村。浮いた彼が落とし、前を向いた選手が前線へ正確なパスをつける。こういった形で、相手のプレスをいなすことができていました。
マリノス陣内にボールがあるとき、鹿島はディフェンスラインまで寄せてきました。必ずしもかわせていたわけではありませんが、広島戦に比べればショートカウンターを受ける回数は減っていたと思います。根気よく繋ぐことを続け、鹿島をミドルブロック守備に変更させることができました。
マリノスもうまいんで、プレスがなかなかハマらなくてボランチの岩田(智輝)選手が浮く状況がどうしてもできていた。そこはちょっとキツいけど(上田)綺世を前に残して、俺が付こうかなと思っていた。そうした中で、やっぱあの時間帯で点を取れなかったことがチームとしては重く、後半の疲れにどっと出たかなと思います。
鹿島の守備が後ろ寄りになった経緯は、鈴木優磨がコメントしていました。相手をかわし続けたことにより、守備の方法を変えさせた。それが鹿島のプレススイッチ役である鈴木優磨だったことが、殊更に効いていたでしょう。
メンタルのところで素晴らしい強さを選手は出してくれました。タイトなスケジュールのなか、アウェイの地でメンタルを強く保ち、自分達でボールを支配しようという気持ちでピッチに入りました。それが良い結果に繋がったので、今日はメンタルの強さが出た試合だと思います。
この日に出た選手たちの組み立て能力が高かったこともありますが、ケヴィンはメンタルを強く保ったことで成功を掴めたと感じているようです。
広島戦での完敗。主な理由は、繋ごうとしたことを逆手に取られたものでした。連敗を避けたいので、普通なら蹴とばす安定志向に走るでしょう。しかし、選手たちは恐れず繋ぐことを選びました。そしてそれを貫き通した結果、相手の守備を下げさせることに成功。この時点で1つの戦いに勝っていたのです。
Q. エウベル選手を後半に投入した狙いや、それによって出た成果について教えてください
前半の最後の方から自分達がようやくコントロールし始めたと感じます。相手にプレッシャーをかけようと話していたので、後半のスタートからエウベルを出場させました。角田選手と永戸選手の2人がエウベルとともに素晴らしいコンビネーションをやってくれたと思います。
ケヴィンがどこを指しているかはわかりませんが、自分は鹿島がミドルブロックに変えた前半30分ごろが分水嶺の1つだと思います。
押し込んだ相手の攻略は、エウベル交代によるキャラ変。ここは前節の広島戦で書いたので、省略します。
鹿島の組み立て
マリノスのプレッシャーが速いこともあってか、鹿島はボールのリリースが早かった印象です。さらに押し込まれているので、前線の選手も守備に戻ることに。本来は敵陣に多くの味方を送り込みたいので、この状況は本懐ではなかったでしょう。
寡兵な状況で浮き球を蹴る。鹿島の選手が上がる時間を作れるかは、空中戦に委ねられます。sofascoreによると、上田綺世が3/8勝、鈴木優磨が1/8勝でした。翻って、畠中が7/8勝、角田が6/8勝でした。勝敗は歴然。ミドルブロックへの変更に加え、空中戦に勝てなかったことも押し込まれた要因だったでしょう。
競り合いに勝てなければ地上戦を仕掛ければよい。その発想を具現化したものが右図になります。しかし、このように自陣から繋いだ回数は少なかったです。
狭い空間でも強いパスを送れ、ドリブルによる前進も兼備しているピトゥカの不在が響くことに。(やることが多いのもありますが)樋口や和泉が同じようなプレーをするには、それなりな余裕が必要になります。個人のプレス耐性が問われるほど、プレー強度の高かった試合でした。
持ちうる手段の個数差
この試合はチーム成熟度の差が表れたと感じました。マリノスは長いこと同じベースでプレーしています。繋ぐことはもちろん、縦に早い攻撃だってできます。その上で相手を押し込んだり、左右に回して様子を伺うことも。翻って、鹿島は縦へ早い攻撃がほとんどになります。後方からの繋ぎはまだ未整備。つまり、両チームの攻め方に種類差がつくことに。これは対応力に直結します。
今季から新しいスタイルになった鹿島。まずは目指すべきベースの構築が優先されます。手段が1つだと、問題にぶつかったとき手詰まりになります。しかし唯一の方法を確立しなければ、そもそも勝つことができないでしょう。まだ他のやり方を覚える段階ではないということです。
今回差がついたのは、任意の場所で時間を作れるかどうかだと思います。縦に素早く仕掛け、スピードで相手を攻守に渡って圧倒する。この方法が刺さらなかった場合、繋ぐことも必要になる。だからこそ、ザーゴ元監督はビルドアップに注力した時期があったのでしょう。(なぜ最初に取り組んだかは、書くと長くなるので割愛)
後半もチャンスはありましたし、1本でも相手に入っていれば、逆に相手はもっと出てきてくれた。そうしたらもっと裏のスペースを使えたかなと思います。けど、もうちょっとチームとして裏を狙うタイミングと、回すタイミングは取り組まないといけないな、とみんなも感じていると思う。そこに向き合っていければ、相手としても、いま裏を狙ってくるのかそれとも足元なのかという怖さが出てくると思う。点差で言うほど俺は悲観してないです。
引き出しの数は鈴木優磨も気にしていたようです。試合をしている選手たちが感じているので、鹿島はこれからの取り組みもスムーズに進むと思います。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
運に恵まれ、神に助けられた
カイキのヘディングがバーに当たったこと。ミンテのシュートが枠外になったこと。これらの運に加え、高丘という神が何本も決定機を防いだことが勝因だったと思います。
0でしのげたからこそ鹿島は最後まで出てきてくれました。先に失点した場合、前向きのベクトルが減少して辛かったかもしれません。そうでなければ、後半勝負なんて言ってられなくなりますからね。スタミナ差を押し付けられたのは、無失点だからこそ。守備から勝利を得た試合だったと思います。
暑い中での試合もできたし、鬼門で勝てたし、連敗も防げた。非常にいい状態でACLに臨めるでしょう。2020年の借りを返しに、ベトナムへ向かう選手たちに幸多からんことを。