【2022 J1 第10節】横浜F・マリノス vs ヴィッセル神戸
スタメン
横浜F・マリノス
- 前節から8人先発メンバーが変更
- 畠中、岩田が前節の退場処分により出場停止
- マルコスが負傷離脱中
ヴィッセル神戸
- 前節から3人先発メンバーが変更
- 菊池流帆はコンディション不良のため不在
- 初瀬が負傷離脱中
似たような思惑から両陣を往復することに
自陣ちょろちょろ、敵陣ぱっぱ
- 相手をかわすため、自陣でつなぐ
- 縦パスが入ったら、一気に相手ゴールへ迫る
- そのためスピードのある選手を揃える
- ハイラインの背後に蹴るタイミングを伺うため、自陣でつなぐ
- 相手背後に走るのは主に2トップ
- なのでスピードのある武藤と小田を先発
マリノスは自陣でつなぎ、相手をかわして前進することを目指します。敵陣に侵入したら、一気に相手ゴールへ迫る形。後方で作った優位が消えないうちに攻めきりたいので、スピードのある選手を揃えました。
神戸の狙いはハイラインの裏。後ろでまわすことによって、抜け出す人とキッカー双方をいい状態に整えます。相手の背後へ抜け出すのは2トップ。そのため、大迫ではなくスピードのある武藤と小田を起用しました。
自陣で時間をかけてつなぎ、敵陣に入ったら素早くゴールへ迫る。やり方は違えど、ボールがあるエリアや時間は似ています。双方ともこのような考えだったため、両陣をボールがいったりきたりする展開になりました。マリノスが自分の土俵に持ち込んだというよりは、双方合意の上でスピーディーな展開になったという印象です。
かわして前を向けるマリノス
- 相手のプレスからズレを作り、下から繋いでいける
- 西村やアンロペが下りることにより、次の選手が前を向いてボールを受けられる
- 相手が前からくるので、背後にあるスペースへ放り込める
- コンセプトは、『前からくる相手をかわして速攻で仕留めよう』
マリノスは相手のプレスをかわし、後ろからつなぐことができていました。ポイントは、間に顔を出した西村や要所で下りてきたアンロペでしょう。彼らに当てることで前進できたので、次にボールを受ける選手は前を向いた状態でプレーが可能。敵陣に向かって選択肢を持てるので、スピードのある前線が相手守備陣と勝負しやすくなります。
また、相手が前からくることも織り込み済み。守備陣との間が開いたとき、間に入った選手へロングボールを送ることもありました。周囲にスペースがあるので、この場合も素早い前進が見込めます。
捕まって後ろ向きになる神戸
- マリノスは相手を捕まえる守備を行う
- 神戸の選手たちはポジションを入れ替えないので捕まえやすい
- 追いかけられた状態だと後ろを向いて受けるしかない
- コンセプトは、『相手ハイラインの背後を急襲』
自陣で過ごす時間が長いのは神戸も同じ。ただ、パスで相手のプレスをかわせたかというと、その回数は多くなかったです。その理由は、組み立て時に人があまり動かなかったからでしょう。
マリノスは相手を捕まえる守備を行います。自分の捕まえるターゲットが明確なほど、素早く寄せることが可能。神戸の選手はポジションを入れ替えることが少なかったので、マリノスからすれば掴みやすい状態でした。常に相手から追いかけられる神戸の選手たち。ボールを受けたときの向きは、必然的に後ろでした。相手ゴールを向いていないので、前進が難しくなります。
元々神戸は、長いボールで相手背後を突くという考えです。敵陣に放り込めばいいため、後方での繋ぎをあまり考える必要がありません。なので神戸が無策というわけではなく、つなぐ仕組みの必要性が薄かっただけだと思います。そしてこの過密日程の中で優先度をつけた結果、組み立ては着手できなかったのでしょう。
特に前線は武藤がいます。彼は背後への飛び出しだけでなく、相手に競り勝つ強さも兼備。雑に放り込んでもおさめてくれるため、蹴るボールの質はそこまで高くなくても大丈夫です。しかし、15分に膝を痛めて交代してしまいました。
代わりに入った大迫は、特別なスピードを持っていません。彼最大の特徴は、後方からのボールをおさめてポストすること。つまり、今まで通り相手の背後に放り込むだけではダメ。しっかり足元へボールを送ることが必要になります。
大迫の足元へパスを入れるには、後ろからの組み立てが必要。しかしその仕組みはこの布陣にはない。相手背後へ効果的に抜け出せるのは小田のみ。最初考えていたプランは、威力が半減することになりました。武藤の負傷交代は非常に痛かったでしょう。
様変わりした後半の様相
布陣変更の狙い
- 中間ポジションの選手が受けることで、相手のマークをずらせる
- フリーな選手は前を向いてボールを受けられる
- 守備時は高い位置に多くの人を割きやすい
- 敵陣に多くの選手を送り込めるので、押し込みやすい
- コンセプトは『相手を押し込んで得点を奪おう』
ビハインドで迎えた後半、神戸は布陣を変えてきました。主な目的は2つ。ビルドアップの改善と、ハイプレスの強化です。これらが合わさった結果、相手を押し込んで攻めることが可能になりました。
各選手が前を向いてボールを受けられるため、後ろから繋ぐことが可能になりました。前半あまり目立たなかった大迫が活躍するようになります。ハイプレスもある程度ハマっていたので、ショートカウンターを仕掛けることも。
最初の10分でこの布陣の効果を見極め、イニエスタとサンペールを投入します。彼らをすぐ投入しなかったのは、行ったり来たりな展開だとまずいため。スピードがないので、2人の弱点が顕著に出てしまいます。変えたフォーメーションを効果測定する時間は必要だったでしょう。
前からいくことのデメリット
- 攻撃の5人、守備の5人と前後に分断しやすい
- 間に放り込まれたこぼれ球が拾いにくくなる
- 前がかわされると残りは最終ラインのみなので、大きなピンチになりやすい
押し込む神戸に対し、マリノスは前半とコンセプトを変えていません。そのため、マリノス陣地にボールのある時間が多くなります。はたから見ると一方的に押し込められてるように見えますが、マリノスとしてはそれを望んでいないわけではありません。
相手が前からくるということは、そこを抜ければ手薄。カウンター1回の威力が上がったのは、これが主因でしょう。後方守備を手厚くするには、中盤の選手(特にイニエスタとサンペール以外)が全力で戻るしかありません。しかし彼らはマリノスのパス回しに翻弄され、前半からスタミナを消耗しています。根気よくつないだことは、こういった場面で活きていたでしょう。
後ろから繋いで相手を前半から走らせる。疲れ始めた後半にスピードを上げて仕留める。これは今季ずっとやっているので、ケヴィンが考えるサッカーのベースかもしれません。
スタッツ
sofascore
SPAIA
Football LAB
トラッキングデータ
所感
全力を出し合えたからこそ表れた、ディティールの差
サッカーは11人対11人で行われます。双方とも「こうしたい」という思いがありますが、相手によって違う展開になる場合が多いです。しかしこの試合は、最後まで互いにやりたいことをぶつけ合えていたでしょう。個人的にとても面白い試合でした。
自陣から繋ぎ、相手を押し込むコンセプトを貫き続けたマリノス。多くの試合を重ねたわけではないフラット4-4-2で挑んだ神戸。積み上げや経験の差が、自陣での組み立てに表れていました。前半はマリノスが一方的に攻め立てることができたはずですが、神戸にもチャンスがありました。これは相手のやり方というより、単にマリノスのミスが多かったからでしょう。本来は前半で決めきれた試合だと思いますので、ここは反省点だと感じました。
後半に神戸が盛り返したのは仕組みもありましたが、やり慣れた布陣というのが多分にあるはず。しかしこれは個に依存しているシステム。大迫、イニエスタ、サンペールを休ませるため、やり方をマリノスに最適化できたとも言えます。それが必ずしも奏功しなかったのは、サッカーの面白いところだと思います。